『マトリックス レザレクションズ』、俺は駄目でした ー 最近観た映画の感想

ラストナイト・イン・ソーホー

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服飾デザイナーになることを夢見てロンドンの専門学校へ進学してきたエリーは一人暮らしを始めたソーホーのアパートで1960年代の夢を見る。

エリーは夢に見た女性・サンディとシンクロし、精神的に現代と過去を行き来する。憧れの60年代ロンドンを楽しむエリーだったが、やがてサンディは夜の街に沈み、シンクロしたエリーも恐怖体験に遭遇することとなる。

心霊体験系のオカルトホラーではあるものの、怖さの質は一般的なホラーと全く違う。パンイチの男の霊とか、心霊現象はむしろちょっと笑っちゃうぐらいなんだけれど、それでも上映中ずっとじんわりまとわりつく不快感がある。

この映画が見せてくる恐怖って主に女性に対する性的搾取なんですよね。女衒に騙されて身を持ち崩していくサンディと、それに引きずられて憔悴していくエリー。

華やかなソーホーの風景に反して二人ともどんどん目が死んでいく。エリーもサンディも夢いっぱいに目を輝かせているところから始まるからそれが本当にしんどい。

俺は観ている間、完全に二人の少女側の目線になってしまっていたので、「男」そのものが怖い、気持ち悪いという普段全く感じ得ない恐怖感というか居心地の悪い不安を覚えました。それは俺にとっては新鮮な感覚で、ある意味最近観た映画の中では一番怖かったと言っていい。

レトロなロンドンの映像は文句なく美しい(最高!)し、エリーとサンディの行く末も良い落しどころだったと個人的には思うのですが、この系統のイヤさはしばらく味わいたくないので再見は当分なし。

ちなみに嫁さんは「程度の差はあれ、女は常にこういう類の不快感を感じているのでそれほど怖くなかった」そうです。日常がハードモードすぎる。

ジョジョ・ラビット

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10歳のジョジョは、イマジナリーフレンドの「アドルフ・ヒトラー」と仲良し。彼に励まされながらヒトラーユーゲントで立派なナチスの兵士になることを夢見るのだった。

ある日、彼は母に匿われて自宅に隠れ住んでいたユダヤ人の少女を見つけてしまう。

なるほど『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』を撮ったタイカ・ワイティティっぽい、と思わせるコミカルな演出と、淡い色彩のポップな画作り。加えて本人演じる妄想上のアドルフ君ときたせいで、俺はエンドロールが始まるまでこれが現実を描いた映画だと気づかなかったのです。

子供が憧れるイマジナリーヒトラー、イマジナリードイツ、イマジナリー戦争だったりするんじゃないかなーとぼんやり思っていたら、ネタバレ・種明かし的なものは何一つなくスッと終わって「これガチなやつじゃん……」とようやく気付いたという。

そう勘違いするぐらいにはポップでとぼけた登場人物たちのおかげでだいぶマイルドになってはいるものの、敗戦間際のドイツで起きている現実は相当にショッキング。

「全部妄想」説で頭がボケていたのでスルッと観れてしまったようなところはあるなぁ、と思います。おかげで現実と認識したときとのギャップが映画終了時にまとめて来てしまってダメージでかかったのですが。

こういうクソ重たい戒めをスムーズに叩き込んでくるのが創作の力というものか、とボンヤリ考えていたのですが、そうこうしているうちに現実の世界情勢の方がとんでもないことになっており、日々超絶ヘビー級のニュースが飛び込んでくる始末。こういう方面で現実が強すぎるの本当勘弁してほしい。

会うたびにジョジョとハグをする親友のヨーキー君が癒しでした。デブ眼鏡の親友キャラにハズレなし。

マトリックス レザレクションズ

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評価が大きく割れてますね。俺は駄目な方でした。もう全然駄目でした。

メタネタってのは隠し味、エッセンス程度に使うから良いのであって、こうも全編にこってりブチまけられたら鼻についてしかたがない。

「親会社のワーナーの意向だから続編を作らないわけにはいかない」「マトリックスといえばこれだろ、バレットタイム!」「スピンオフで会おう!」

これ全部作中の人物が言うんだよ。皮肉やジョークにしたって格好悪すぎでしょ。内輪受けの同人誌を読まされてる気分だよ。

あまりにも有名になってしまった赤い薬と青い薬のくだりが陰謀論界隈に勝手な解釈で使われたりして、旧作品の扱いに関しては監督が忸怩たる思いを抱えていた、というのは後から知りました。

だから「『マトリックス』はそんな映画じゃないんだよ!!」と再構築した気持ちは分らんではないけれど、焼き直すにしたってもっとスマートなやり方があったんじゃないの、と思います。

再びマトリックスに囚われたネオが赤い薬で現実を知るまでの流れとか、モーフィアスとの修行とか、どうしても「それもう観た」となるし、あれほど斬新で世界中に衝撃を与えたアクションはなーんかもっさり。

スーパーヒーローではないネオを描きたい意図はわかるけれど、それにしてもごちゃごちゃしたカメラワークで全然面白くねぇのですよ。20年分の進化を見せろとは言わないけれど、旧作の馬鹿馬鹿しい程の中二病アクションクオリティは保って欲しかった。

「監督が描きたかったものはそれではない! 否定派はテーマを読み解けていない!」という意見も見ましたが、読み解けてようがなかろうが俺が観たかったもんとは全然違うんだもんよ。面白くなかったって言ったっていいでしょ。

勝手に期待して勝手にがっかりしただけですよ。評論じゃないただの感想なんてそんなもんです。

良い所を挙げるならばクライマックスの映像とか、現代的にアップデートされた結末は好みだったのでちょっと評価が上がったのですが、ポストクレジットでどん底に叩き落とされました。

自虐や皮肉は作品の外でやってほしい。ほんとに。

好きな人には悪いけど、俺はこの映画はイヤイヤ作ったようにすら見えちゃったよ。

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