ドロステのはてで僕ら
理由は不明だが、カフェに置かれたモニターが突然「2分間の過去と未来を繋げるテレビ電話」となった。
このモニターの存在を知ったカフェの常連客たちが、なんとかしてこれを有効活用できないかと考える、というSFコメディ。
アイデアはめちゃめちゃ面白いし、話も綺麗にまとまっているとは思うけども、個人的にはそれ以上のものではなかったな。
出演者が劇団の人たちなので、演技も演出もまんま演劇なのですよね。折角ややこしい設定を映像で伝えられるというメリットがあるのに、全部口で喋っちゃうからどうにも冗長。演技も舞台上から遠くの客に見せるスタイルが板についちゃってるせいか、どうしても大げさで不自然に思える。
結果として過剰なリアクションによる不思議テレビの説明だけで短い上映時間の半分以上(体感)を費やしている感じ。勿体ない。
後半に起こるトラブルをこのテレビを使って解決するのがこの映画のメインですが、辻褄合わせをしているだけのあっさりしたものに思えてしまうのも残念。
この辺も演劇ベースで分かりやすさを優先した結果なのかもしれないけれど、俺には合わなかった。逆に演劇好きな人は楽しめるのかもしれない。映画というより映像化された舞台演劇なんですよね。
「2分後の未来」ってものすごく荒木飛呂彦的で面白そうだと思ったんだけどなー。作中では「藤子不二雄のSF短編」って言ってたけどね。
あとメイキング映像で全編スマホで撮ってるのが分かって驚きました。それは素直にすごい。
アイの歌声を聴かせて
タイムライン上での評価がものすごく高かったので上映終了直前に駆け込みで観てきたのですが、俺にはびっくりするほど刺さりませんでした。
極秘プロジェクトとしてAIロボットの素性を隠して高校に通うシオンと、AI研究者である母のスケジュールを覗き見してしまい、シオンの正体を知っているサトミ。
シオンは何故か「サトミを幸せにする」ことにこだわるものの、人間の幸せが何かがわからないシオンは突然歌いだすなどの奇行を繰り返し、正体を隠そうとするサトミは振り回される。
何も知らない無垢なAIが「幸せ」を学習し、サトミのみならず周りの人間を皆幸せにしていくハッピーハッピーストーリーなのですが、ちょっと登場する大人たちの頭がハッピーすぎなのでは、というのが率直な感想です。
シオンはサトミの母親が進退をかけたプロジェクトなんだけど、分かりやすく嫌味な悪役として描かれた支社長がプロジェクトを潰したくて仕方ない人なんですね。それに関して作中で説明されているのが「男社会で出世しているサトミの母親は妬まれている」「AIを怖いと思う人もいる」ぐらい。
前者は実験都市を作ってしまうような大企業がそのレベルかよ、としか言いようがないし、そもそも課長がミスしたら大喜びで潰しにくる支社長って何? 部下の出した成果が自分の手柄になる立場でしょアナタ。しかも相手はたかだかいち課長。支社長ともあろう者が一体何やってんの? ばかなの?
後者に至っては、終盤でサトミたちの邪魔をするガードロボットに対して「初めて機械が役に立った」とか言うんですが、そんなに機械が嫌いな奴がなんで先端AI企業で支社長やってんの? って話なんですよね。
社会通念に照らしてみると何故その立場に居られるのか分からないレベルの無能オブ無能が訳のわからない理由で邪魔をしてくる。この悪役がどう見ても嫌がらせのためだけに作られたようないい加減な造形なので俺はこの映画全体が茶番に思えてしまったのですね。
アホすぎる悪役というのはただのご都合主義と大差ないです。支社長じゃなくて出世競争をしているライバルの課長とかならまだ分からなくもないですが。
シオンはシオンで「みんなの幸せのために一生懸命なポンコツAI」という扱いなんですが、実際はあらゆる電子機器を一瞬でハックするオーバーテクノロジーマシンだし、それがサトミの幸せのためなら善悪問わずに何でもしかねないのも怖すぎる。
あるシーンで「純粋で健気なAIが迫害される」みたいな描かれ方をするんですが、人間がやったら普通に逮捕されるような事をやらかしてんだからそりゃそうだろと。ポンコツというより「超高性能なのに一般常識を持ち合わせないAI」なので、傍から見ればただの暴走ですよ。
なのでこんなAIを野放しにすんなよという意味では支社長に完全同意なんですが、先に書いた通りコイツにも全く共感ができないので、どこまでもストーリーが上滑りしていくし、こんなガバガバ極まるプロジェクトに進退をかけているサトミの母親もアホに見えてくる。
高校生の青春ストーリーや、人とAIの共存や幸せを追い求める主題を味わう以前に大人が揃いも揃ってダメダメ過ぎて全く入り込めませんでした。
とはいえ各所のレビュー評価は全体的に高いので、こう感じるのは俺の根性がねじ曲がっているせいだと思います。ホントすいません。
ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ
「悪」「残虐」を標榜して、実際は懐いた大型犬のようにかわいい宇宙生命体を描いた前作『ヴェノム』。
各方面からの「思ってたんと違う」の声をものともせずに、続編ではさらにかわいさを積み増してくるじゃないの。まあ前作のあの内容から急にダーク路線に移行されても困るので予想の範疇ではあるけれど。
エディとヴェノムの共存生活もすっかり板について、親友どころかもはやラブラブカップルというブロマンス路線を押しまくり。
俺はこれはこれで支持。だってヴェノムめっちゃくちゃかわいいんだもの。マーベル映画で一番かわいいヒーローですよこの子。
ヴィランはカーネイジ、しかも中の人はウディ・ハレルソンということで凶悪・残虐成分はそちらで受け持ってくれることを期待していましたが、思ったほど強くないし案外あっさりしたもんでした。クロスオーバーを考えてMCU準拠にしているのか、人は死ぬけどほとんど映さないし。
カーネイジはヴェノムとスパイダーマンがふたり掛かりでようやく撃退するような強敵という認識(メガドライブに基づく知識)だったのでやや拍子抜けではありますが、これはもうバトルじゃなくてエディとヴェノムのイチャイチャとか、かわいいヴェノムのほっこりライフを観る映画として全然有りなんだよなぁ。とはいえ、これがダメだって人の言うことも良く分かります。
いちおうダークヒーローなので画は全体的に暗いけど、内容はとことん明るいお気楽ムービー。初めからそれを期待して観れば超楽しいんですけどね。