皮膚を売った男
プロポーズ成功の喜びのあまり「革命」という言葉を使った動画が拡散され、投獄されてしまった男、サム。国外逃亡して難民となるも、海外へ移動する自由はなく、家に帰ることも恋人に会うこともできない。
サムはある有名アーティストからの提案で、背中をキャンバスとして提供することにより自らを「アート作品」とし、国外移動の権利を得るのだった。
アート、つまりは物品扱いされ続けることによってメリメリ削れていく人間の尊厳をシリアの内戦と難民問題に絡めて描いていく。
最初は良い生活に浮かれるも、展示を経るごとにみるみる死んでいくサムの目や、家族とのネット通話越し日に日に悪化していくシリアの内情、シンプルに美しい光の使い方など、見るべきところは非常に多いのだけれども、オチがちょっと。
ハッピーエンドは好きだけど、無茶苦茶取ってつけたような終わり方をして、それまで結構真に迫ってた脚本がいきなり嘘くさくなってしまった。
どっかに怒られて付け足したん? ってぐらい結末が分からん。なんでこんな終わり方にしちゃったの。
サムが飼ってる猫は最初から最後までかわいいです。
マリグナント 狂暴な悪夢
連日悪夢に見る殺人事件が現実にも起こりだす、というホラー。
いやこれめっちゃめちゃ面白い。同監督の『死霊館』は正直ピンと来なかったのですが、全く別タイプのホラー映画である、ということだけ書いときます。
ポスターがなんかすげえ怖いんですが、映画本編はあんまり怖かったり痛かったりグロかったりはしません。ひたすらにエキサイティング。面白カメラワークも素敵だし、でっかい音でビックリ系でもないのでホラー苦手でも結構観られるタイプ。
そしてわりかし想像したものと方向性が変わらない真相が待っているものの、訳の分からん迫力と面白すぎる映像で圧倒してくるパワー型エンタメ作品です。
ばっちり完結しちゃってるけど、作れるものならこの作品の登場人物や施設を使って同一ユニバース作品とか作って欲しいわ。
(「魔城ガッデムみたいな病院」の意)
レッド・ノーティス
豪華キャストで予算の大半を使い切ったんじゃねーかって感じ。
FBI捜査官と大泥棒と峰不二子が世界を股にかけてわちゃわちゃやる大活劇なんだけど、風景がグリーンバックのCG丸わかりなんですよねぇ。なんなら処理甘くて緑色の輪郭が見えちゃってるとこまであるし。萎える。
お話自体は警官と泥棒が追っかけっこしたりピンチには協力したり、峰不二子においしいところを搔っ攫われたりするド定番のやつなので好きな人は好きだと思います。
囚人ディリ
パーティで犯罪組織に毒を盛られた警官たちを移送するために運転手として動員されたのは、たまたま居合わせた囚人のディリ。釈放を盾に取られてしぶしぶ協力することになる。
前後左右に分厚いおっさんが圧倒的暴力で戦うタイプのインド映画。インドのアクション映画はこうでなくちゃいかん。
腕力一発、って感じのアクションシーンは久々にこういうのが観たかったんだよ、と心が躍る。ダンスや歌もなく、非常にストイックな作り。
なんだけど、アクションシーンまでが長ぇんですよね……。
犯罪組織の妨害をかわしてトラックを走らせるロードムービーパートと籠城して犯罪組織の襲撃に耐える警察署パートが交互に展開されるのだけど、トラックは全然進まないし、警察署襲撃犯は「ドアが硬い木でできてる」とか言ってバンバン叩くばかり。猿なのかこいつらは。
膠着状態の描き方に無理があるので敵も味方もすっげえ愚鈍に見えちゃうし、話も間延びしてる。あと3~40分は切り詰めてもいいんじゃねーかって感じ。
こっちは戦うおっさんが観れりゃそれでいいんですよ。不死身に過ぎるディリや巻き込まれたビリヤニ屋の兄ちゃんとかはいいキャラだったし、最後の大暴れも無茶苦茶で良かったので非常に惜しい。
配信されたら自分でカットしながらもっかい観たい。
グリーンブック
基本的に「感動的なイイ話」みたいな売り出し方をされてる映画ってあんまり観ないんですが、観たら観たでイイ話だったのでイイ話だなと思いました。
(だいたいこういう感想になるのが避けてる理由)
1962年、いまだ差別の根強いアメリカ南部で黒人ピアニスト、ドクター・シャーリー(ドク)が演奏ツアーを試みる。運転手に雇ったのはイタリア系白人の男、トニー。
金持ちインテリの黒人と、腕っぷし自慢のガサツな白人。正反対の凸凹コンビのロードムービーなんてのはこのサイトに書いたものだけでも『ノッキン・オン・ヘブンズドア』『ローガン』『バジュランギおじさんと、小さな迷子』といった具合で枚挙に暇がありません。
こういう属性が全く異なる人間同士のロードムービーはお互いの距離感の変化が見所のひとつだと思いますが、この映画は友情友情とベタベタしておらず、しかし確実に生まれていく互いへのリスペクトがいい。
最初はナチュラルに黒人を差別していたトニーが、旅のなかでドクが受ける理不尽を目の当たりにして本気で憤るようになる。それはドクの人柄に触れたこと、ドクの演奏に惚れ込んだことによるものだけれど、その変化が本当に自然に描かれているし、黒人差別という大きなものに対する憤りでないのもいい。
つまりは「こいつは立派ないい奴なのになんでそんな扱いをするんだ」という、素直な感情。偏見のフィルターが外れて、当たり前のように一個の人間として見ていることがわかる。それが個人へのリスペクトに立脚しているというのが非常にいいんですね。
トニーは「個人を尊重する」という差別の対極にあるスタンスに自然と変わっていき、ドクもそんなトニーを信頼する。
演奏旅行が終わり、旅の間に生まれた良い関係が結実するラストも本当に爽やかでよい。なにより、やってることが等身大で説教臭くないのがよい。
そりゃアカデミー賞とるわこれ。