エニグマとサメとワニ ー 最近観た映画の感想

イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密

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これは素晴らしい。

ひとつの作品でこれだけ多くの感情を描き、観ているこちらにも複層的でなんとも言い難い気持ちと複雑すぎる余韻を抱かせる。あらゆる感情てんこ盛りの映画だと俺は思うのです。エモい(語彙力)。

アラン・チューリングのチームによるエニグマ暗号機解読の実話を元にしたお話。

アランの尊大に見える態度や他人との会話の噛み合わなさから、社会性のない超天才が周囲の無理解をものともせずに無双して偉業を成し遂げる映画だと思わされるのですが、そういうテンプレめいた予想はやがて裏切られます。

アランは自分のマシンで暗号を解読するという方針だけは絶対に譲らないものの、自分ひとりの力ではそれが叶わないこともまた認めて、チームメンバーと打ち解けようと努力をする。んだけど、普段から人との関わり方を知らないからやりかたがヘッタクソで。それがたまらなく愛おしい。

一方で、アランをいけ好かないと思っているメンバーも選りすぐりの暗号研究者なので彼のやりかたの正しさにはやがて気づいていく。だからこそ、ぎこちなくも互いに歩み寄る。こういった友情とか仲間意識以外でつながる関係性が好きでねえ。

その潤滑油の役割を果たすのがチームの紅一点、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークで、この人がまた、これまで見たどんなヒロイン像にも当てはまらない良さ。

アランが一目置く才能を持ち、軍の研究所という男社会で渡り合う。作劇的なテンプレで言えば「強い女」ポジにあたるはずなんだけど、この人はなんというかしなやかなのですよね。

誰にも負けない能力を持ちながら、一歩引いて好かれようとすることを厭わない。現代にまして立場の弱かった女性だからこその戦い方。アランもそんな彼女から学んでメンバーと関係性を築いていく。

その彼女が素晴らしい豪胆さをみせるシーンがとても好きなのですが、ネタバレになるので詳しくは伏せます。

歴史上の事実としてエニグマが解読される日が来るのは分かってるわけで、彼らがどうやってそのゴールに辿り着き、どんな振る舞いを見せるのかというのがこの映画の山場のひとつ。そこでめでたしめでたし、というのがプロジェクトものの映画ではよくあるパターンですが、それで話が終わらないからこの作品は素晴らしい。この作品の複雑な余韻は解読後を観てこそのもの。

単なる「プロジェクトX」で終わってても全然面白いところに、戦争のエグい現実や政治的権謀術数、アランが抱え続けて生きて死んだマイノリティの孤独などをぶち込んで終戦後までをたった2時間にパッケージ。その2時間で不足も蛇足も感じさせない美しい映画に仕上がっております。

たった2時間でこんなにも。「~が好きなら」みたいな枕詞抜きでおすすめ。

あと単純にチューリングマシンのビジュアルがめっちゃ格好いいのでメカ好きも観るのが良いと思います。

デビルシャーク

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超名作から最悪のコンボを組んでしまった。

Z級サメ映画には往々にして「サメがほぼ出ない」という特徴があるようですが、この映画もそれを地で行っています。

嫁さんが「ゾンビーバー」を観たことをtwitterで呟いたらフォロワーからこの「デビルシャーク」をオススメされてしまったらしく、また、俺は俺でこの映画の酷さは伝え聞いていたので、喜び勇んで嫁さんと一緒に観たわけです。

いや、すごい。これ観るとデビルマン」はまだマシなのがわかる。あっちは原作付きという事もあってストーリーは分かるもの。

誰かが水に近づく → 3秒ぐらい報道番組の解説CGみたいなサメのカットが映る → 襲われる、または取り憑かれる演技(サメ無し) → 突然場面が切り替わる

という事が延々繰り返されます。

とあるサメ映画のレビューで「サメと人が同じ画面に映っている」という褒め言葉を目にしたことがあるのですが、ようやく意味が分かりました。

低予算映画には演技が下手、脚本が下手、カメラが下手、画作りが下手、という作品が少なからずありますが、この映画は加えて編集が絶望的に下手、というか描写するのが面倒くさくなったら適当にぶった切って出来事の顛末は視聴者に各自考えてもらうという手法をとっています。

おかげですべてのシーンの繋がりに全く脈絡がないうえに、頻繁に全く意味のないシーンが挟まるので何が起きたのか一切把握できないまま映画が進みます。観ているとホラーと違う理由で心が不安定になってきます。

馬鹿なわけでもなく、悪ふざけをしているわけでもなく、ただひたすらに全てが下手くそなだけの映画。それでもこれを完成させて世に出す思考が一体どこから湧いて来たのか、それが分からなすぎて一番怖い。 

クロール ー凶暴領域ー

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サメからワニ。普通の評価がついてるアニマルパニック映画で口直ししようと思って。

超巨大ハリケーンが接近する中、家の床下になんかワニがいて、父娘が命がけの脱出を試みます。こんなシチュエーションですが、馬鹿パニックではなくシリアス系。

この父娘、ピンチに陥って話を盛り上げるためだけに愚かな行動ばっか取るんですが、これを観たときの俺はワニがちゃんとワニなだけで全て許せたし、ワニと人が同じ画面に映ってるのすごいなあ、とか思ってました。

ワニの皆さんは有象無象のモブをアグレッシブにお食べあそばされます。基本、水中に引きずり込まれて見えない所で食われるので、えぐいゴア描写が少ないのも良いところ。

食われるのは災害に乗じた火事場泥棒とか、視聴者的には何の思い入れもない主人公の姉の元カレとかなので、元気よくまりまり食われまくる食べコンボにはある種の爽快感があります。まあそれだけの映画なんですけど、アニマルパニック映画なんてそれで十分ですね。

あと、嵐の屋外の映像が彩度低めのコントラスト強めに加工してあって、水墨画みたいなカッコよさがあります。ワニもいいけど水害描写が良かったな。

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