最近観た映画5本-2017年3月

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「ザ・コンサルタント」一押しです。

ザ・コンサルタント

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 面白かった。すっげー面白かった!!

 軍人の父親が自閉症の息子を強く生きていけるように厳しく育てたら、筋骨隆々、無敵の戦闘力を誇る会計ゴリラが完成してしまいました。光や音、周囲のあらゆる刺激に怯える程に繊細で線の細い美少年が立派なベン・アフレックに成り果てる。なんて恐ろしいんだ軍隊式教育。

 物語に出てくる自閉症キャラの常として、主人公のクリスはひとつの人間離れした才能を持っています。それは異常に数字に強いこと。その才能と並外れた戦闘能力をもって裏社会専門の会計コンサルタントをしています。表沙汰にできないようなヤバい仕事に関わっても、強いから証拠隠滅で消されずに済むというわけですね。どう考えても親父の教育方針が間違っていたと言わざるを得ません。

 ひとたび戦闘に入るともはや完全な殺戮マシーンと化すクリス。倒した相手に着実にヘッドショットを決めて止めを刺す様は「ジョン・ウィック」を思わせます。あれもよっこらしょ、と相手を投げ倒してからパスパス撃つのが印象的でした。

 といっても、そんなに戦闘ばっかりしているわけではなく、ストーリーはたまたま受けた「裏」ではない大企業の不正会計問題、「会計士」クリスがいかにして出来上がったのかという成り立ちの物語、そして「会計士」の正体を追う財務省の極秘捜査の3つが軸となっています。

 これが本当に良くできてた。それぞれに最低ひとつはでっかい伏線回収があって、しかもそれぞれが絶妙に絡み合っている。綺麗にまとめて収拾をつけるんだわ。後になって考えると割とありきたりの設定に見えるのだけど、観ているうちは全然気づかないあたりが演出の妙なのかもしれません。

 特にラストバトルはかつて見たことのない決着をしていてとても好き。言いたいことは沢山あるのだけど、ネタバレになるので避けます。もうホント親父は育て方間違いまくってて、その、あれだ、駄目だぞ。なあ。

 クリスのキャラも良くって、愛想笑いひとつできないのに不正会計のトリックを解説したり好きな絵の話をしているときだけちょっとだけ笑顔になるところや、自閉症ゆえにコミュニケーションをミスってもそれを察知してごまかす社会適応度の高さなど、細かい描写と演技が光る。無感情に淡々と敵を倒して回る殺戮マシーンとしての顔との対比があるから尚良い。

 なお、俺が一番好きなセリフは「わかる」です。皆も観てわかりを得ましょう。

ガタカ

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 遺伝子デザインが一般的になった近未来。DNAを見れば生まれたての赤ん坊の将来性や寿命すら概ね分かってしまう。DNAの優劣はそのまま社会的地位に直結し、劣等と判断された者は職を選ぶことすら難しい。

 そんな世界で自然受精で生まれ、DNA診断で短命を運命づけられた主人公。生まれながらの被差別者となってしまった彼はしかし宇宙飛行士になることを夢見てしまった。

 優良なDNAを持つが訳ありの協力者から血液や尿を提供してもらい、DNAを偽装してガタカ(NASAみたいなもん?)で飛行士の座を勝ち取るも、内部で起きた殺人事件のの捜査により正体が露見しかける。果たして主人公は正体を隠し通して宇宙へ行くことはできるのか?

 評価すんごい高い映画ですけど、俺は全くといっていいほど入り込めませんでした。前も書いたけど物語から教訓を受け取るの好きじゃないんだよ俺。

 夢を見ること。それを掴み取るために理不尽に抗い戦うこと。それは崇高なのかも知れないけれど、体力のない人間が宇宙飛行士に選ばれないのは当たり前の話で、DNA差別以前の問題。そこを他人のデータで乗り切っちゃったら裏口入学と変わらんじゃないの。

 替え玉を使うのはあくまで「DNAだけで判断される理不尽」に対してのみであるべきだと思うのだけどね俺は。そうじゃないとただのインチキにしか見えないんだよなあ。

 ディストピアっぽい無機質な建造物のビジュアルは良かったです。

ヘンゼル&グレーテル

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 お菓子の家で魔女を退治したヘンゼルとグレーテルは大人になって、魔女を狩って生計を立てるウィッチハンターとなっていました。魔女が熊みたいな害獣扱いでちょっと面白い。

 子供向けみたいな脚本のわりに妙にゴア描写が多くて歪な感じがする。原作からして生きた魔女をかまどに放り込んで焼き殺す話なんで忠実っちゃ忠実なのかもしれませんが。

 お菓子の家に監禁された時に死ぬほど甘い菓子を食わされたせいで糖尿病になり、定期的にインスリン注射をしないと死ぬというヘンゼルの設定が全く無意味で実に良かったです。

 あと家の中にもっさり前転しながら飛び込んで、カウンターで顔ひっぱたかれるところが面白かったぐらいで、他にとりたてて言うことはないです。何で前転したの? ってじわる。

 あ、終盤魔女が大集合したところはマリリンマンソンのPVみてえだなと思った。

 以上。

チャッピー

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 犯罪都市ヨハネスブルグ。南アフリカ政府はAI制御の警官ロボットを導入し、犯罪抑制に成功していた。

 そして感情を持つ新型のAIをインストールされた個体「チャッピー」が、いろいろあって犯罪の片棒を担がせようと企むスラムのチンピラに強奪され育てられるというお話。

 物語前半の教育パートは純粋無垢で善良なチャッピーをどうだまくらかして強盗させるか苦心するという酷い話ではあるのですが、それでもギャング文化を吸収しつつ恐るべきスピードで成長していくチャッピーの姿を観るのは微笑ましい。

 俺は映画の「修行シーン」ってのが結構好きなんですよね。「ベスト・キッド」で家事手伝いばかりさせられたと思ったら、いつの間にか受けの型を習得していたとか。大抵の場合「こんな過程がありました」ってな感じで短く端折られがちですが、登場人物が新しいことをマスターして着実に目的に近づいていく様を眺めるのが好き。そういう楽しさがこの映画にもあります。目指すゴールは強盗ですが。

 観てると可愛いチャッピーにすっかり情が移ってしまうので、あんまり可哀想なことにならないで欲しいなあとハラハラ眺めることに。クソ野郎キャラは終始心底クソ野郎だし、終盤のたたみかけるような展開からは幸せになれる気配が全くしないんだこれが。

 そう思わせといて最後には綺麗にまとめてくるので良かったです。それはそれでハッピーだよね、と思える結末は、なるほど「第9地区」の監督らしい。「エリジウム」も観たけどこれが一番好きだわ。おすすめ。

 それとロボットの動きがいいですね。犯罪摘発時の警官ロボット群の戦闘とか、怯えて物陰に隠れるチャッピー、街中でいじめられてトボトボ帰るチャッピー。体重移動が自然だからなのか、人間くさい動きに全く違和感がなく、それが感情移入に一役買う。

 モーションだけでなくCG自体もいい。廃棄予定のボディの使い込まれた感じがヨハネスブルグのスラムの雑多さに綺麗に溶け込んで全く浮かない。何気に技術力の高い映画だと思います。

 あと「テンション」は笑う。

ワールド・ウォーZ

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 世界中が凶暴化ウイルスの感染者で溢れる、要するにゾンビパニック映画。「28日後…」みたいな、即時発症しておまけにめっちゃ走るやつ。

 かーなり評価割れてますが、俺は好き。ゾンビ映画といっても人を食うわけでもないし、バラバラにしないと動きが止まらないというわけでもないのでゴア描写が少なくて、なんというか一種の清潔感があります。あまり汁気がなくてサラッとしているというか。

 生き残った人類も少人数で閉鎖空間に立てこもる息苦しいものではなく、組織だってゾンビに対抗する、つまりゾンビとのワールド・ウォー。まあブラッド・ピットを主役に据えた時点でグチャドロのホラーにはなんないよね。全体的に痛さや絶望感が少ない「綺麗な」ゾンビ映画です。

 ゾンビは音の刺激に反応して一箇所に集る集る。高いバリケードを築いて侵入を防ぐのはゾンビ物の定番ですが、この作品ではそんなものは通用しない。ゾンビはゾンビを踏み台にしてどこまでもどこまでも高く登りつめ、ゾンビの山からゾンビ雪崩・ゾンビ津波とでも形容すべき現象が発生する。もはや馬鹿馬鹿しいレベルの物量映像は圧巻です。

 一方で携帯電話を切り忘れてゾンビに見つかるなど、ギャグでやってるとしか思えないようなシーンもあったりして、その手の愚行はそれはそれでゾンビ映画らしくもあり。「人類の希望の星」のアレに関しては「地獄でなぜ悪い」の堤真一みたいな顔になったよ。

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 笑わせようとしているのかマジなのかさっぱり分からん。そういうところも含めて嫌いじゃないです。

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