B級ホラービッチ無双『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』他 ー 最近観た映画の感想

プロミシング・ヤング・ウーマン

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予告がもう面白い。

泥酔した振りをして、自分を「お持ち帰り」する男に鉄槌を下す女、キャシー。彼女は学生時代に巻き込まれた性犯罪によって自身の前途有望な将来を失っていた。

手当たり次第だったお持ち帰り男への復讐は、偶然学生時代の知人に再会することで一変する。かつて事件に関わった人間たちの幸福な現在を知り、キャシーは彼らにターゲットを定めた復讐を開始するのだった。

バカ学生が酒の勢いと集団のテンションで行った性暴力。「こんなこと」で将来有望な若者の未来を閉ざしてはいけない、とそれを庇護した大人。被害者に寄り添わず、自業自得とあしらった傍観者。復讐の対象は加害者のみに留まらない。

同じような事件が報道されるたびに吹きあがる「自業自得」論には俺は心底うんざりするのですが、そういった既視感を覚えるような映画がアメリカで制作されたことにちょっと驚く。女性の人権に関しては日本より余程進んでいる印象があるのですが、こうやって問題提起されているということは実際のところは日本と大差ないんですかね。

まあこの手の事件で被害者を責める論調は本当にクソだとよく分かる映画でございます。

痛快な復讐と、それに伴い徐々に明かされていくキャシーの動機。展開がスリラー映画としてよく出来ているのは勿論のこと、キャシーの復讐方法が決して加害はせず、相手と同じ所に落ちないということを徹底しているのが良かった。

それでいて自分が何をしたかを自覚させ、それを心底後悔するような恐怖をきっちり与えているし、そういう復讐だからこそ真に反省し悔いている人間には手を出さない。そのことが結末に綺麗に結びついているあたりも見事。

最終的に何もかも巻き込んで諸共に地獄へ落ちんとするかのような復讐を遂げるわけですが、キャシー本人含め誰一人幸せにならないラストには本当に気が滅入ります。だからこそこの結末には圧倒される。加害者連中が残らず燃やし尽くされるであろう未来に爽快感を覚えつつ、かつ悲しい。

あと音楽が良かったです。

ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ

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亡くなった母親が20年前に出演していたカルトB級ホラー映画の世界に入り込んでしまったヒロインが、若き日の母と共にファイナルガール(ホラー映画で最後に生き残る女の子)となるべく奮闘するホラーコメディ。

殺人鬼の設定や映画の展開を知っていることを逆手にとって作戦を立てるメタ展開はホラー映画のお約束をいじり倒す『キャビン』を想起させますが、こちらは登場人物がそれに自覚的である分だけよりコミカル。

独特の効果音で殺人鬼が近くにいることに気づいたり、謎エフェクトが降ってきて回想シーンへ突入することが分かったり。

そしてヒロイン一行の介入でB級ホラーなら真っ先に死ぬはずのビッチさんが長生きしたりする。彼女の扱いが狂おしく好き。

一緒に映画に迷い込んだイケメンに対する特殊な求愛行動とか、現実から持ち込まれた向精神薬をバカ食いして最終決戦前にガンギマリになってたりとか。

ビッチが服を脱ぐと殺人鬼が現れて殺されるのがお約束だから、服の上からライフジャケットや手袋まで着こまされて待機。いざ殺人鬼との対決の準備ができたら「獣を解き放て!」の合図と共にリリースされて音楽に合わせて脱ぎ捨てていく。彼女がフラグ用アイテムとして作戦に組み込まれる展開が大変お気に入りです。

B級ホラー映画の世界だから人はバンバン死にますが、血はほとんど出ないしグロもなし。登場人物の雑でコミカルな死に様は笑いを誘いすらする。

ビッチさんがオッパイを出して殺人鬼をおびき寄せる瞬間もきっちり顔のアップにカメラを切り替えることでエロ回避。全編通して配慮が効いてて安心して観ることができる。無理に過激な展開なんか入れなくても面白い映画はちゃんと面白いんだよな。

B級ホラーらしく時間も短く、しっかりお約束を踏襲するオチもいいね。 

G.I.ジョー

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何だかすげえ装備の特殊部隊が大活躍する、何の変哲もないアメリカ万歳映画だ! ひゃっほう!

近々公開される3作目の「未曽有の忍者テロ」というコピーに惹かれて1作目のこれを観ましたが、これだけでお腹一杯になっちゃったよ。どうしよう。

「あらゆる金属を高速で腐食させる超兵器」が登場し、それの輸送任務が始まった時点で嫌な予感しかしませんが、言うまでもなく悪の組織に奪われて世界が征服されそうになります。

こういう投げやりな導入や、武力で世界を牛耳ろうとする悪の組織の陳腐さは様式美すら感じさせて嫌いじゃないです。脚本なんてどうでもいいからアクションと爆発だけ見てればいいというのが分かりやすいので。

どっからどう見てもCG丸出しのメカ戦闘とか、酸素マスクと片眼鏡をつけた古式ゆかしいデザインの悪のプロフェッサー等、2009年の映画とは思えない作りが逆に癖になる。

大作並みに金のかかった贅沢なB級映画ですねこれ。酒飲んだりスマホいじったりしながら適当に観ましょう。

パワードスーツで車を追いかけるカーチェイスは良かったです。なんか一杯爆発してました。市民めっちゃ死んでると思います。

あとはイ・ビョンホンが白いなあと思いました。登場するたびに「白い」「白いなあ」「ほんと白い」って。最後は無意味に脱ぎます。

刺されて海に落ちて死んだので多分続編で出てくるだろうなと思ったら、普通に2のポスターにでかでかと顔が載っていて面白かったし白かった。含みを持たせて退場させたんだから、ちょっとは隠そうとしてほしい。 

G.I.ジョー (字幕版)

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