「ベイマックス」観てきた
すげー面白い映画ですよ、とは最初に書いておきます。それは間違いない。
和洋折衷の美麗なCG世界で繰り広げられる、笑えて泣けて明快なストーリー。派手で華麗なヒーローアクション。完成度は恐ろしく高いです。
ただ、あまりにも完成度が高すぎ、バランスが良すぎで物足りない感じがしてしまったのですよ俺は。極上の料理を出されているのに、あまり咀嚼して味わうことができずにうっかりツルッと飲み込んでしまった気分。
味の感想を聞かれて「めっちゃ喉越し良かったっス」としか答えられないような。
この映画を観ようと思ったきっかけが「広告詐欺」との評判からなんですけどね。
こういう広告展開で少年とケアロボットのハートフルストーリーと見せかけておいて熱い戦隊ヒーローものだと。マーベル原作だと。ド王道だと。天元突破だと。本国アメリカでのイメージビジュアルはこんなんだぜと。
もうめちゃめちゃ面白そうじゃないですか。
期待にテカテカしながら観に行って、実際面白かったのに物足りない。この満たされない感じはなんなんだ、と考える。
そもそも俺がこの映画に求めるものを間違っていたのだろうね。美味い餃子を食いに行ったら特上寿司が出てきた感じ。これはこれで最高に美味いんだけど、今日の俺は餃子モードだったんだよって。
ディズニーにB級グルメを求めんなよ、という話。
俺はこの映画を評したキーワードである「ヒーロー」「王道」という言葉から少年漫画的な熱さを期待していたのだろうと思います。
具体的に言えば
- 「待たせたな!!」
- 窮地からの逆転、チームであることの意味
- 「ここは俺に任せろ!!」
- 個性を活かしたメンバーそれぞれの活躍
- 一番好きな「ここ俺」は「ラゼンガン!! オーバロォォォオド!!」です(TV版)
- 「ヒーローは倒れない」
- 不屈のド根性・限界を超える
- 「オラにみんなの元気を分けてくれ!!」
- 強大な敵に対して、力を合わせての勝利
といった方向でのベタ展開を求めていたんですが、そういう要素は薄いと感じました。*1
108分という尺の中にありったけを詰め込むためにはそれぞれを掘り下げたり引っ張ったりする余裕がないのでしょうね。そのせいか観ているこちらの感情の振れ幅があまり無く、アクションの格好良さとカタルシスが比例しなかったのが違和感を感じた最大の原因かも知れません。
要するに悪役ブッ倒してもスカッとせんのよ。
兄が事故で亡くなるという鬱展開含め、窮地はもっと徹底的に窮地として描いてこそヒーローの強さや機転が引き立つと思うんですが、ファミリーがメインターゲットになるディズニーアニメではそこまで登場人物を痛めつける訳にはいかないのかな。
そういう意味では詐欺とまで言われたハートフル方面での打ち出し方はあながち間違ってなかったんじゃないかと思います。そのつもりで見ていたら奇想天外なメンタルケア物語としてさらに楽しめた気がする。ヒーロー物としてはちょっと丸すぎるんだわこの映画。*2
以下、ネタバレ有りでつらつらと。
- 前座の犬ムービー、犬が塩分とカロリー過多で早死にしそう
- 「"優しさ" で世界を救えるか?」 誰も世界を救おうとなんかしてないし、そもそも世界は危機に陥らない。これが広告詐欺だろ
- 研究室の面々をその研究内容と共に紹介していくのがいい感じ。それぞれの性格と同時にヒーローになった時の特殊能力を連想させるから、この時点で活躍を想像してワクワクする
- よく見るタイプの「アメリカン蓮っ葉ガール」なゴーゴー姉さんかわいい
- 万能タイプよりはスピードキャラや鈍重キャラが好きなんだよね俺
- マイクロロボットのプレゼンも同様。ヒロの天才性を魅せつける良いシーンだと思った
- んだけど真っ先に連想したのがこれなのでインド映画ってのは本当に罪深い。心に消えない烙印を刻んでいきやがる。お前らいちいち面白過ぎんだよチクショウ
- イベント終了直後に炎上する会場。そういう展開の早さは嫌いじゃない
- 火災の原因が気になる。キャラハン教授がマイクロロボットを奪いつつ、自分の死を偽装するために火を放ったとすると行動があまりにも短絡的だし、本物の事故をうまく利用したと考える方が自然かなと思う
- だとするとタダシの死に関する教授の責任は「自分を助けに来たタダシを見捨てた」事になるんだけど、タダシ突入後に建物が爆発炎上してたし教授は気づいてなかっただけなのでは
- タダシの行為を「余計な事」と吐き捨てたのはヒロを激高させるには十分だけど、観てるこっちはあまり怒れないんで倒した時の爽快感が不足する
- 教授がものすごいアホに見えてもいいんで、火を放ったのが教授だと明言してしまうか、事故ならタダシに遭遇した上で死を偽装するために見捨てたという描写があると良かった気がする
- 起動後、隙間にひっかかりながらチョコチョコ移動するベイマックスかわいい
- 目を細めると一本線になるベイマックスもかわいい
- ヨタヨタとサンフランソーキョーの街を歩くベイマックスに追いつけないヒロはお約束コメディな感じで良いですね
- 街並みが美しい。ネタ的にわざと間違ったニッポンを描写する作品は多いですが、これは綺麗に融合されてて嫌味や下品さを感じない
- 「キル・ビル」とか「ニンジャスレイヤー」も大好きですけどね
- だが「カブキマン」、お前は駄目だ
- 仮面の男に襲われた所で「うわああラジニカーントが!! ラジニカーントの津波が!!」って思ってしまったので俺はもう駄目だ
- どうしても「ロボット」と結び付けずにいられない体に
- 信号を守り、ウィンカーを出すカーチェイスもブチ切れたゴーゴー姉さんがハンドルを奪ってからのカーチェイスもどちらも最高
- 教授はそこまでして教え子たちを殺そうとする必要はないんじゃない?
- ようやくヒーローチームの結成へ。科学オタク達が自分の研究を基にそれぞれのウェポンを作るというのは実に燃える
- 黙って試運転の実験台になる執事さん素敵
- 酔狂な金持ちが自費で開発した武器で戦うってのは実にアメリカンヒーロー
- 「ああ、グリーン・ホーネットとかね」
- 「何故そこでバットマンとかアイアンマンが出ないの」
- 飛行テストの時、橋の手前でエンジンを切ってスポーンと放り出される感じで落ちていくところがすごい好き。物理エンジン!! って感じ
- 逆に慣性を無視してズギャッと飛び立つところや、空中でビシッと静止するアクションにも痺れる。あの丸っこいロボがそういう動きをするのがいいんだ
- センサー1000倍程度で街中スキャンできるのか。基本性能高いな
- 「アビゲイル」って女性名なのね。赤くなって突進してくるモヒカンのオッサンしか連想できないよ俺
- 初バトルで連携が上手くいかずに劣勢になるというのはとても良いと思う。だからこそ後半のチームとしての戦いに期待してたんだけど、連携なんてフレッドとハニーレモンの煙幕ぐらいしか無かったよね
- 置き去りにされた仲間が戻ってこれた理由をちゃんと説明してて良かった
- 富豪ヒーローの執事は万能アイテム
- ラストバトルの舞台装置として、ビルを飲み込む巨大ポータルとそれを支えるマイクロロボットというのは派手でいい。実にいい。よくそんなに量産できたな!!
- でも攻撃方法が相変わらずで地味。もっともっと数に任せてヒーローを追い詰めてもいいと思う
- だから「見かたを変えろ」というタダシの言葉からそれぞれが窮地を切り抜けるのもイマイチ地味に感じてしまった。「機転」という程じゃないんだよな
- そこから個々の活躍が始まるわけだけど、ベイマックス以外はそれぞれ勝手にマイクロロボットをブッ散らかしてるだけだしなあ*3
- ハニーレモンの「化学反応」以外はただの力技って感じがする
- フレッドに至ってはジャンプ力も炎も使わずに「看板」だし
- 看板燃やして使ってたけど、マイクロロボットに炎が効かないのは火災からの生存で実証済みだしな……
- あとこれ思い出した
- ベイマックスのアクションは良かった。落下しながら学習した空手の型を一つ一つ繰り出していったり、急上昇からの急降下 → 寸止め なんかも痺れるね
- 空中で急停止 → 寸止めする制御技術すごい
- ヒロは戦闘しないのかよ
- ヒロの特殊能力が「ベイマックス」だと考えればいいんだろうなこれは
- 「ケアロボットに飛行能力は必要でしょうか?」 → 「私は空を飛ぶケアロボットです!!」 うおおおおおお!!
- ここはグッと来た。こういうシーンがもっと欲しかったね
- ポータルに飛び込んだ所でT2のラストみたいになるんだろーなーと思ったらやっぱりそうなった。だがそれがいい
- ロケットパンチをただのオマージュにせず、グータッチのエピソードにも繋げる。T2のサムズアップも意識してんのかな
- ただ、別れに涙するほどヒロとベイマックスの結びつきを感じなかったのも事実。ベイマックスは常にヒロのことを思いやる行動をとっていたにもかかわらず
- ベイマックスがケアロボットということもあって、その行為がただのプログラムなんじゃないかとの思いがよぎってしまう俺の性格の悪さよ
- だってお前ケアプログラム抜かれただけで仲間おもいっきりボコってただろと
- スタッフロール。キャスって誰だよ、って思ったら叔母さんか。声の出演が菅野美穂だからって一番上にもってくるのやめろよ……
- 日本の映画業界のこういう所ホント嫌い
- スタッフロール後の小ネタはわりとどうでも良かった
雑感はこんなところ。「物足りない」とは書きましたが、老若男女誰もが楽しめるものを目指して、まさにその通りに組み上げられ、磨き上げられた傑作だと思います。*4
誰にも楽しめるというのはつまり最大公約数を目指すということだから、個人の満点にはそもそもならない訳で、そこに文句を言うのは野暮ってもんでしょう。
「俺はこうした方が好みだな」とは言うけどね。