「ママチャリからの乗り換えでクロスバイクを買いたい。でもどれを選べばよいか分からない」という方にはいつも「最低4~5万円以上で一番格好いいと思う奴を選べば良い」と言っています。*1
何故ならば、ママチャリとクロスバイクというカテゴリ間の差に比べれば、エントリークラスのクロスバイクの違いなど誤差と言ってもいい程度の差分だからです。
どれを選んだって走りの軽さという点ではホームセンターの2万円ママチャリを遥かに上回ります。それならば、詳細なスペックにこだわるよりは長く気に入って使える形のものを買うのが絶対に良いと俺は考えます。
とはいえ、同じ価格帯でもきちんと比較して一番自分に合っているものを買いたい、という気持ちは分かります。高い買い物ですから納得は大事です。
これら一連の「クロスバイク欲しい」記事を書くに辺り、俺自身は見た目以外にどういった部分を比較していたのか、思い当たるだけ書いてみようと思います。クロスバイクに乗ってみたい、と思った方を自転車沼に引きずり込む一助となれば。
俺はブログの目次というものがあまり好きではないのですが、今回は流石に項目が多いので一応置いときます。
スペックシートを眺める
「クロスバイク界のデファクトスタンダード様」「価格破壊」「チート」ことGIANTのESCAPE R3のスペックシートを見てみましょう。これらの呼称は俺が勝手にそう呼んでるだけですが。
はい。パーツ名だけ並べられても訳わかんねえですね。
訳わかんねえのでひとつひとつググって調べることになりますが、とても面倒くさいのでやっぱり見た目で選ぶのがいいと思います。(完)
いくつか候補があって選びきれない、なんてときだけ以降が参考になれば。
コンポーネント
変速機やブレーキその他、駆動系のパーツをひっくるめてコンポーネントと呼びます。これらは明確にグレードが分かれているので比較がしやすいところ。
クロスバイクのコンポーネントは大抵シマノ製品がメインになります。安心の高性能でトップシェアのシマノパーツ。エントリークラスのクロスバイクはそこにパラパラと他社製のパーツがコストダウンで混ざる感じ。上のスペックシートでいうとTEKTROのブレーキとかですね。
コンポーネントはロード用とMTB(マウンテンバイク)用のものに大別されます。大雑把にいえばロード用は軽くてギア比が高くスピードが出しやすい。MTB用は若干重い分、頑丈でギアも多く上り坂に強かったりブレーキが良く効くといった感じです。
シマノのコンポーネントのグレードはWEBサイトの「コンポーネント」からロード用/MTB用それぞれ確認できますので参考までに。上のほうが高価でいいやつです。
ディレイラー(変速機)とギア
一番分かりやすいところから。
引き続きESCAPE R3を参考にさせてもらいましょう。この辺です。
ロード用とMTB用
ディレイラーにはフロントとリアの2つがあります。直訳すれば「脱線機」とでもいうんでしょうか。クランクとリアホイールにそれぞれ付いているギアセットの上でチェーンを脱線させて切り替える仕組み。やや乱暴ですが、ここに注目してフロントギアが2枚ならロード系、3枚ならMTB系のクロスバイクだと言ってよいかと思います。*2
R3のギアクランクは「PROWHEEL SWIFT 28/38/48T/CG」。この28/38/48Tがフロントギアの歯数を示しています。CGって何だろう。Chain Guardで脱落防止パーツかな。
数字は3つあるのでギアは3枚、MTB用のコンポーネントだということ。歯数が多いほど1回転で多くのチェーンを送りますから、重くて速いギアになります。
リアのギアセットは「SHIMANO HG41 8S 11-32T」で、8Sはギア8枚、11-32Tは最小と最大の歯数を示します。こちらは歯数が少ないほど重く、速くなります。少しのチェーン送りでたくさん回転することになりますからね。
まとめると「フロント/リア」のギア比が大きいほどスピードが出せる、小さいほど軽くなって坂が楽に登れる、ということになります。
が、個人的にはここの数字はあんまり気にしなくていいと思います。トップギアは本当に重いから思いっきり漕ぐ必要がありますし、その上かなりのスピードが出るのでクロスバイクで使うシチュエーションが思いつきません。街中や車の多い通りじゃ恐ろしくてとてもとても。
軽い方はまだ使い道がありそうですが、余程の激坂を登るのでなければやはり滅多に使わない。普通の街乗りで使うようなギアのレンジはロード系でもMTB系でも十分カバーできます。だからどちらを選んでも使い勝手としては大差ありません。
ロード系は全体の仕様をスピード寄りに、MTB系は快適性寄りに振る傾向があるのでその辺ざっくり見分けるための材料とでも思っとけばいいです。
あとはやはり見た目ですね。フロント2枚と3枚でクランク周りの密度が変わると印象も違ってくるのでその辺も気にしてみると面白いです。
リアのギア枚数
コンポーネントのグレード次第で7枚~10枚程度。それに掛けることのフロントギア枚数がトータルの変速段数です。
そんなに枚数が必要なのか? という疑問に対しては、あればあったで便利だと答えます。ゆるい坂や向かい風などのコンディションの変化に対して細かく負荷が変えられると一定の力で漕ぎ続けられるので疲れにくいんですよね。重いギアが疲れるのはいうまでもありませんが、軽すぎても脚がむやみに速く回っちゃってやっぱり疲れます。ペダルの負荷は体重を支えるものでもあるので適度な重さが有ったほうがいいのです。
とはいえ、リアが7枚や8枚で困るかというと全くそんな事はありませんので、気に入ったバイクのギア枚数が多かったらもうけ、ぐらいに考えましょう。リアならギアの1枚や2枚程度は街乗りクロスバイク選びの決め手にはなりません。
変速段数が多い、すなわちグレードが高いディレイラーは精度も上がるので変速がスムーズだったり音が静かだったりしますが、正直エントリークラスのクロスバイクで気にするような差は出ないと思います。というか俺はロードバイクのハイエンドコンポーネントでもあんまり気になりません。そんなシビアな乗り方しないので。
フロントシングルギア
やや珍しいタイプとして、フロントシングル(ギア1枚)のバイクもあります。
画像はternのCLUTCH。
ternが2015年から展開しているクロスバイクのシリーズはコンセプトが明確で、街乗りならそんなにギアはいらねーよってんで全車種がフロントシングルです。先にも書きましたが、実際極端に重い/軽いギアを使う状況はそれほどありませんので、割り切りの方向性としては十分ありです。
フロントディレイラーが不要になるのでシフター(ディレイラーの操作レバー)およびケーブルも不要。軽くなるし、ケーブルが1本減るだけでも大分見た目がスッキリします。ゆえにかどうかは分かりませんが、フロントシングルのバイクはデザインに拘りを感じられるものが多く、俺は好きです。
ブレーキ
MTB用のVブレーキが主流ですが、さらに制動力の強いディスクブレーキやロード系のキャリパーブレーキを採用したバイクもよくあります。どのタイプか分からなければスペックシートからパーツ名を拾って検索しましょう。
Vブレーキ
こういうの。左右のバーの下端を支点として、上端をワイヤーでつないで引き絞ることでブレーキシューをリム(ホイール周辺部)に押し付けて制動する仕組み。ワイヤーを外せばパカーンと大きく開くので太いタイヤでもOK。
ここはよくコストダウンの槍玉に上げられる所で、安いクロスバイクには大抵テクトロ製のVブレーキがついています。自転車歴の長い方は口を揃えて言うんですよね。「テクトロのブレーキは止まらない」「さっさと交換しないと死ぬぞ」と。
しかし俺は言いたい。「そんなことねーよ、めっちゃ止まるよ」と。慣れない頃なんかは制動力の高さと車体の軽さで急停止時には後輪ちょっと浮いてたぐらいですよ。
ホイールが泥汚れしやすいMTB用のVブレーキは元々の制動力が高いので、多少性能が劣ったとしてもクロスバイクには十分だというのが実際のところでしょうか。
なので、Vブレーキならテクトロだからといって避ける必要は特にありません。
キャリパーブレーキの場合は分かんない。
キャリパーブレーキ
ロード用コンポーネント。中心の一点で支えるタイプ。
太いタイヤは入らないがコンパクトにまとまっててかっこいい。制動力はVブレーキに比べて低め。
制動力が低いというと印象がよろしくないですが、ブレーキはあんまりクイックに効かせすぎても前方につんのめってしまうので、スピードの出やすいロード系はじわっと減速するキャリパーの方が比較的安全ということもできます。とはいえ思いっきりブレーキレバーを握ったらキャリパーブレーキだってキュッと止まりますが。
ブレーキのタイプは何であれ、急ブレーキをしないで済むように適切な減速をするのが一番大事だということです。
ディスクブレーキ
MTB発祥ですが、最近はロードバイクにもよく付いてるやつ。
リムではなく、ホイール中央に取り付けたディスクを挟んで制動するブレーキ。ちょっと引くだけでめっちゃ止まる。リムが濡れたり汚れたりしても関係ないので、環境によらず安定した制動力が維持できるのが売り。一方、構造上遊びが少ないのでピーキーになりやすいかも。
機械式と油圧式があって、油圧式の方が高価。パスカルの原理でより軽くブレーキが引ける。ミドルクラスのクロスバイクにはよく付いています。
ディスクの形状もデザインがいろいろあるので注目したいところです。
フレームとフロントフォーク
フレーム素材
クロスバイクはアルミが主流。クラシックなフォルムを好む向きにはクロモリ(鉄)を。お金持ちにはカーボンのバイクもあります。
アルミとクロモリ
アルミといえばcannonndaleってことでQUICK4と。
俺が個人的に愛してやまないクロモリバイク、BASSOのLesmo。
並べてみれば違いは一目瞭然、フレームの太さが全然違います。アルミは軽量な反面、強度でクロモリに劣るのでやや太くなる。加工が容易なので、曲線を多用したGIANTのFASTROADみたいな面白デザインも可能で、メーカーごとの個性が出ます。
また、QUICK4もそうですが、アルミはミドルクラスになるとケーブル内蔵式のフレームなどもあり、これは大いに検討の価値があります。第一の理由はやはり「スッキリして格好いい」なのですが、掃除がしやすいとかフレームにアクセサリが付けやすい等の実質的なメリットも多いです。
クロモリは重くて頑丈なので細いフレームのクラシカルなスタイルほぼ一択。とはいえ、そのシャープな外見をこそ好ましく思う人間も多いです。俺とか。
カーボン
カーボンは軽くて丈夫、そしてクソ高価い。
フルカーボンのフレームはハイエンドの20万円とか30万円とかするモデルにしか使われていないので、気軽にその辺乗り回したいクロスバイクには全く向いてないのではないかと思います。盗難が怖くて「ちょっとコンビニで買い物」なんて用途には使えねーよ。
石油王とかIT長者の人が買えばいいんじゃないですかね。
フロントフォーク
前輪を挟み込んで支える部分。リジッド(固定)フォークとサスペンションフォークがあります。
リジッドフォーク
普通のフォークです。路面の凹凸による振動がダイレクトにハンドルへ伝わる代わりに、推進力が逃げないので加速が良くなります。舗装路を走る分には迷わずリジッドフォークです。
また、クロスバイクにはフォークだけカーボンというモデルも多いです。カーボンは剛性を確保しつつも細かい振動を吸収する特性があるのでスピードを殺さずに乗り心地をよくすることができます。
サスペンションフォーク
画像はGTのTRANSEO 5.0。
メカニカルなフォークで、バネがボヨンボヨンと動いてショックを吸収。乗ってて結構面白いんですが推進力も吸収しまくるので、未舗装などの悪路を走るのでなければわざわざ選ばなくても……という感じ。
もちろん一定の需要はあるのでしょうが、少なくとも日本でのパイは小さいんだろうな、というのは各メーカーの販売ラインナップの少なさからお察し。悪路を走りたいのならMTBという選択肢もあります。
ジオメトリ
フロントフォークまで含めたフレーム全体の形状のことをジオメトリといいます。ここもまたESCAPE R3のやつを。
まあ、スペックシートの中で一番参考になんないところです。
直進安定性やら乗り心地の硬さやら、それぞれの数値がどのような意味を持つかはちょいと調べれば分かるのですが、実際乗らなきゃ程度の違いなんて分かりませんから。複数候補があるならば可能な限り試乗をしましょう。
体に合ったサイズのフレームを選ぶことがなにより肝心で、おおよその適応身長は大抵ジオメトリ表と一緒に書いてあります。ただ、これもセットアップ次第で幅を持つので、表を見て決め打ちするのではなくて、きちんとフィッティングしてくれる店で買うのが良いです。
また、表を見れば分かる通り、同じモデルでもサイズ違いで形状のバランスが全く異なりますから、バイクそのものの印象がガラッと変わることもままあります。カタログにはワンサイズしか載っていませんから、購入前には適応サイズの実物を横から眺めてみることをおすすめします。
ホイールとタイヤ
ホイール径
ほとんどが700Cという規格なのであんまり考える必要はないのですが、ちょっと小さい650Bや650Cというバイクも最近ちらほら見られます。
タイヤの径が小さければ漕ぎ出しが軽いとはいうものの、ギアを軽くすれば済むことですし、650B/Cと700Cで乗り心地に大きな違いがあるとは思えません。となると一番の違いはやはり外見に帰着します。
先程、同じモデルでもサイズ違いでフレーム形状が大きく変わってくると書きましたが、それはタイヤの大きさが変わらないから。フレームだけで体の大きさの違いを吸収することになりますから、サイズ違いの相似形にはなりえないわけです。
ぶっちゃけ小さいサイズにはバランスが崩れて格好悪くなっちゃっているものもあります。そこで650Bや650Cのホイールが存在感を発揮するわけです。
逆にいうと、あえて主流から外れた650B/Cを採用しているバイクはデザインにこだわった結果そうなったというのが大きな理由のひとつと考えていいと思います。
主流でないとはいえ、タイヤやチューブといった消耗品はネットで簡単に手に入りますし、もうこれは見た目の好みで決めちゃっていいところです。
cannnondaleのBADBOY 2017年モデルは650B。ちょうカッコイイ。
タイヤ幅
いろいろありますが、クロスバイクで採用されているのは25c~35cぐらいです。幅25mmから35mmってことですね。
細いタイヤは接地面積が小さくなり、それに比例して転がる際の抵抗も小さくなります。つまり速い。これは空気が抜けて接地面積が広くなってしまったタイヤの走りづらさを考えればしっくりくるかと思います。
一方、タイヤが太くなればクッションがよくなるので振動が減り快適性が増します。太い分頑丈でパンクもしづらくなりますから走破性も上がります。
タイヤは後から簡単に交換できるところなのでここを見てバイクを決めることはありえませんが、速く走らせたい or 快適に乗らせたい、綺麗な舗装路を走らせたい or 荒れた路面も走らせたい、といった具合にメーカーがバイクに込めたコンセプトをある程度読み取ることはできるということです。これも結局試乗するのが一番手っ取り早いのは変わりませんけれど。
サドルとかグリップとかハンドルとかシートポストとか
もうこの辺は「その他」で一括りにしちゃいますが、コストダウンで安物のパーツにしているメーカーもあれば、乗り心地を良くするコンフォート系のパーツを売りにしているメーカーもあります。スペック表からは分からないですし、自慢したい部分はカタログにでっかく書いてきますから、テキトーにメーカーサイトの売り文句を参考にしてください。
ただ、それらが体に合うかどうかは体型や乗車姿勢によって変わってきますし、パーツを交換して自分好みに変えていくのも自転車の面白いところですから、あとから振り返ってみるとこの辺の初期仕様は割とどうでもいい所だったりします。
もちろん初期仕様のまま長らく使えれば金がかからなくていいんですが、いろいろ試行錯誤するのも楽しいもんなんですよ。
これを沼といいます。
おわり
以上、俺が選ぶときに見ているのはこんなもんです。需要はあまりないと思うんですが、一度ちゃんと書いておきたかった。ほとんどの項目で長々書いた挙句に「見た目で決めよう」「試乗しよう」という結論になっているのがお分かりいただけると思います。どう選んでも大差がないか、あるいは数字だけじゃ分からないからです。
自転車に乗る人が初心者の方に見た目で選べと言うのは決して面倒くさいから適当なことを言ってるわけじゃないのよ、ということが伝われば幸い。
他にも何か思いついたらぼちぼち追記していきます。内容に間違いがありましたらご指摘いただけると有り難いです。おわり。