ソニーの 「音が良くなる」 microSDカードに思うこと
2ヶ月ほど前、ソニーが「高音質」を謳ったSDカードを発表して物議を醸しました。曰く、「音源が本来持つスムーズな音のつながり、澄んだ音場の広がり、粒立ちの良さ、みずみずしさを再現」できるとのこと。
これに対し、ソニーが出したデータの胡散臭さも手伝って、「ソニーがオカルトに手を出した」と軽く炎上、Amazonのレビューは大喜利状態になるというお祭りがありました。
起こるべくして起きた祭りだと思うんで擁護する気はないんですが、ソニーの発表にもバッシングの内容にも何だかモヤッとするんでその事を書きます。
「デジタルデータがメディアで変化するわけねえだろプギャー」
ソニーがそう主張していると考えてオカルト呼ばわりしている人は少数派だとは思うんですが、Amazonの大喜利とかを見るに一定数は居そうだなあと。
まあ変化しませんよね。ていうか発表時点で公式にそう言われてますね。
読み出した音楽データ自体は、通常のカードから読みだしたデータと違いはないという。
音質の差異は「電気的ノイズ」によるものだと明言されています。「電気的ノイズ」って言い回しも相当曖昧で胡散臭いんですが、ある程度想像はできます。
大雑把に図を描くとこんなイメージでしょうか。専門外の人間が適当に描いてますんで、多少のツッコミどころには目をつぶってください。
- SD:記録メディア
- 信号処理:デコーダーとかアンプとかイコライザーとか?
- DAC:D/Aコンバーター。デジタル信号をアナログ波形に変えるとこ
ブロック同士を繋ぐ右向きの矢印は信号の流れ。バッテリーから各ブロックに電源供給されて、SDからデジタルデータを右側に渡していって、最後はDACとスピーカーで音声に変えてボェーと出力してますよ、という図です。
あ、バッファメモリ描いてないや。「信号処理」の中にあることにしてください。
SDからノイズが出るとこう。電源やGNDパターンを伝わってか、空中からの飛び込みかは分かりませんが、「電気的に」DACのアナログ電源に影響を与えると。この理屈は別にオカルトでも何でもない。むしろノイズの発生源を抑えにいくというのは至極真っ当なアプローチに思えます。
だからピュアオーディオの電力会社ネタなんかが引き合いに出されているのを見ると、さすがにそれと一緒にするのは違うだろ、と思います。
「オーディオ側の設計が悪いからそうなるんだよ」
理屈はわかった上でこう言う人もいます。
これに関しては確かに設計が悪い可能性もあるけれど多分違うんじゃないかなと。
SDってスッゲエ電流を引っ張るので、電源ノイズもバリバリ出すんですよね。その手のノイズは配線パターンを工夫したりフィルタを入れたりで影響を小さくできますが、0になるわけではありません。ノイズは「許容出来るレベルまで低減させる」のが設計者のできる事。
モバイル機器なんてサイズ制限の関係で、GNDは弱いわ部品は入らねーわパターンは走らねーわと縛りがきついから、SDのノイズが他に波及するなんて開発段階ではよくある話。そんな中で100点は無理でも、ユーザーが満足できる85点、90点の設計をすることが求められるわけで。
出来る限りの手を尽くした上で、それでも「違いがあることを意識すれば分かる人には分かる」レベルの音質劣化がSDのノイズによって起こる、なんて事は十分有り得る話だと思うのですよ。
それで設計が悪いと責められるならオーディオの設計者って可哀想だなあと思います。オーディオはそういう世界なのかも知れませんが、だとしたら俺はあんまり関わりたくないなあ。
このSDで向上する音質というのは、きちんと設計された85点が88点になるとか、90点が92点になるとか、そういう水準の話なのだと解釈しています。使わなくても音は十分良いけれど、使えばもっと良くなりますよ、という。
俺は要りませんが、そういうニーズはあっても良いだろうとは思います。そこまで音質を求めるならモバイルオーディオなんて使わなきゃいいじゃん、という身も蓋もない話は置いといて。
ソニーに対して思うこと
全部ソニーが悪い。
企画から発売までの間に山程あるであろうプロセスを想像すれば、いくら何でも一部のエンジニアの思い込みだけでこんなもんが発売されるとは思えません。だから音が変わる事に関してはそんなに疑ってないんですよ俺は。少なくとも開発に関わった人の多くは確信を持ってリリースしているはず。
でもそれなら根拠を示して売れよと思うんですよね。「測定結果に違いが出なかった」じゃないよ全く。おそらく本当に音は変わるんでしょう。でもそれをきちんと説明できないんだったらまだ売っちゃ駄目だと思うのよ。「よく分かんないけど多分電気的ノイズが減ったから音が改善するんだと思います」って、そりゃオカルト扱いで馬鹿にされても仕方ねえよ。
差がないのではなく、手持ちの測定環境では差が測定できない、ってのが実際の所でしょうから、さっさと然るべき研究機関にでも持ち込んで、意地でも差を見つけ出せよと思います。
それでも差が測定できないのだとしても、本当に音が変わるのだったらブラインドテストの統計データを出すとかソニービルにデモルームを作るとか、いくらでも説得力を持たせる方法はあるだろうにそれをしない。そりゃコストはかかるだろうけど、売るんだったらそのぐらいは責任持ってするべきなんじゃあないですかね。
ソニーからは全然情報が出ないし、どこのWEBメディアもなんかフワフワした事ばっかり書いてるから、比較的理解を示している方だと自負する俺ですら本当は効果がないんじゃないかって気になってきてます。それもこれも全部ソニーが悪い。
いっそ自分で買って試してみようかとも思ったんですが、さすがに高級プレイヤーとヘッドホンにまでは金が出せません。
記事のネタとしては面白いと思うんですが、誰か自腹で検証してくれるオーディオマニアの方はいないもんでしょうか。「いいね!」ぐらいだったら何ぼでも押しますよ。1秒間16連射で。Facebookやってないけど。