「おかゆネコ」がなんかもう好きすぎた-Kindleで読んだ漫画 28
おかゆネコ。「体がおかゆ鍋で出来た猫」的な、1年で消える出来の悪いキャラクターグッズみたいなものを想像していたのですが、読んでみたら「誰にでもおかゆを作って振る舞う猫」でした。
おかゆでも煮てやるよ!
動物が突然しゃべりだし、知能も人間並みになるという謎の奇病「しゃべり病」にかかっている猫のツブ。長旅に出る両親から一人暮らしの八郎のもとに預けられてきました。
ツブさんのツブはごはんつぶのツブ。八郎の両親から彼の健康的な食生活を託されたツブは、亡きおばあちゃんを喜ばせていたおかゆ力で八郎の一人暮らしを支えるのでした。猫に料理させる理由を「奇病」で片付けるの大好き。
しかしツブがかわいすぎる。この絶妙にボヘェとした顔に海苔をまいたような適当な模様。吉田戦車の描く人外キャラクターって無表情なのが多いイメージなのですが、ツブは非常に表情豊か。
猫好きの多田課長に「人間並みに手先が器用になる爪切り」を施してもらい喜ぶツブ。
なでてもらえず怒るツブ。
亡くなったおばあちゃん(電脳化)に再会し、甘えるツブ。
世話焼きでしっかり者。高い精神年齢からくる人間臭さを持ち、八郎とは主従を超えた良き友。でありながらもちょっとした描写から溢れる猫らしさ。吉田戦車って作風のせいでヘタウマ扱いされやすいんだけど、実際のとこ絵はかなり上手いよね。
事あるごとにおかゆを煮ては食わせる猫。それは実に吉田戦車的なるもの。*1 ゆえにギャグ漫画かと思いきや、というかギャグ漫画なんですが、これは料理漫画でもあります。
トラブルや悩みを料理で解決するという料理漫画のテンプレートがありますが、この漫画も基本はそれに倣います。ダイエットしたい、スタミナを付けたい、もらいものの食材を有効利用したい。こういう食事に直結した問題をはじめ、ホームシックや狐憑き、新商品の売上不振など、何でも料理でねじ伏せようとするのもまた料理漫画のお約束。
といってもツブは単に何でもおかゆにしたいだけだし、往々にして問題は何も解決しない。
しかしこのツブさんなんていい顔なんだろう。
そしてこれは料理漫画としては斬新だと思うのですが、ツブは度々失敗おかゆも作ります。技術の問題ではなく、独創性を発揮しすぎるが故に。
パフーン。
作中に出てくる創作おかゆは全て作者が実際に作ったもので、意外な食材が思わぬ美味しさを発揮したものや、おかゆにするより素直に白飯に乗せたほうがうまいよね、というものなど。中にはストレートに不味いと描かれているものもあり、レシピは載っているものの「試さなくていいです」などとあるのも、実際に食べた人の感想として面白い。
タモリ倶楽部の珍しい食材を料理する回やオリジナルの加工食品を作る回のような、普通の料理漫画とはちょっとベクトルの違った面白さがあります。
サブキャラ達も魅力的。変質者レベルで猫が好きな多田課長もいいんですが、やはり八郎に想いを寄せる同僚の俵がいい。
もらいもの系エピソードのきっかけはいつもこの俵。彼女はたびたび八郎の家に来ては食材を置いていく。
玄関先に生のイワシや生卵を1個だけ置いていく人。長いおさげを自在に操り、物を掴んだり持ち上げたりすることができる。
一言でいえば異常者の類ですが、吉田戦車の漫画で何をいまさら。
八郎と同居するツブへのライバル意識からか、初めのうちはツブにきつく当たっていた彼女ですが、段々と打ち解けて仲良くなってくるにつれて、なんか健気でいいお嬢さんに見えてくる。
ツブと俵が組んで料理する話が結構あるんですが、この子素直なんですよね。
簡単に口車に乗る俵。
料理下手だけどツブの指導で頑張る俵。
猫の手ではできないツブに代わって、八郎のためにおにぎりを握る俵。
何度でも書くがツブは実にいい顔をする。本当にいい顔をする。
俵のそれは若干方向性が狂っているけれど、八郎を気にかけて世話を焼くという点ではツブと同じ。だから何だかんだで二人は仲良し。なごむ。
ツブは当然かわいいけれど、俵もかわいいよ俵。
まごうことなき吉田戦車のギャグ漫画でありながら、料理漫画でもあり猫漫画でもあり、ファミリーものや体験エッセイのようなテイストも。ギャグ漫画だけでなく、子育て漫画や諸々のエッセイも書いている吉田戦車の集大成のような漫画だと思います。
でも別におかゆは食べたくならない。だっておかゆだし。
その外し具合もなんというか、絶妙。
*1:「伝染るんです。」のしいたけとかを連想します