「高慢と偏見とゾンビ」観てきた
イギリスの古典恋愛小説「高慢と偏見」にゾンビを悪魔合体させたマッシュアップ小説「高慢と偏見とゾンビ」の映画化。何だよマッシュアップ小説って。
どうにも世の中にはゾンビ作品が好きで好きで仕方のない人というのが多いようで、モノクロ映画の昔から数少ない名作と大量の駄作が綿々と制作され続けています。
その数少ない名作をものにするためにはいかにすべきか。原作者のセス・グレアム=スミスはあまりにも斬新な結論にたどり着いてしまいました。
「名作小説にゾンビを足したら名作ゾンビ小説になるんじゃね?」
俺知ってるぞ。お前みたいな奴が「空手とブーメランを組み合わせた全く新しい格闘技」とか言い出したりするんだよ。
原作は未読。興味はあったものの、元ネタの恋愛小説を読む気がしなかったからですが、今回映画を観に行くにあたり、ゾンビが出ない方を観ておいたほうがよかろうと思いBBCのドラマ版を買いました。
ラブロマンスということで敬遠していましたが、結構面白かったです。ゾンビ映画を好まない嫁さんもコリン・ファースで釣れたので一石二鳥。18世紀イギリスの価値観というのはいまいち腑に落ちない部分もありましたが、そういった違和感も含め前もってストーリーを知っておけたのが非常に良かった。
物語も登場人物の性格も基本的に「高慢と偏見」に忠実なので、当然のようなツラをして混ぜ込まれたゾンビの異常さをより一層楽しめます。それこそが本作の見所のひとつだと思うので、大幅なネタバレではありますが観る前にゾンビが出ない方のあらすじだけでも押さえておくことをおすすめします。
可能ならば小説を読むなりドラマを観るなりしていきましょう。
以下、ゾンビが出てくる方のあらすじを序盤だけ。
ゾンビが出ない方を「原作」と表記します。赤字は原作との差分。
- 18世紀末。イギリスには謎のゾンビウイルスが蔓延していた。人々はロンドンを囲う巨大防壁の中、あるいはゾンビの少ない田舎で生活をしている
- 女性に求められるのは気品、教養、そして武術。ベネット家の5人姉妹は中国の少林寺で修行を積んだカンフーマスターである
- 舞踏会のため着飾る娘達。互いのコルセットを紐を締め合い、ガーターには短剣を
- 舞踏会に紛れ込んだゾンビをバッサバッサ狩りまくるベネット姉妹。その姿を見た資産家のダーシーは次女エリザベスの美しい瞳と筋肉に恋をする
- 5人共得意武器やバトルスタイルが違うようだがあまり披露の機会はなかったのが残念
- 舞踏会のミスタイプで「武闘家」と誤変換したのがあながち間違いではないので困る
- 原作のダーシーは軍人ではないが、「~とゾンビ」では大佐ということになっていて、軍の命で一般人に紛れ込んだゾンビを狩るゾンビハンターの任務を担っている
- 黒レザーのロングコートがいかにもな感じで良い
- ダーシーは原作通り憎まれ口を叩いてエリザベスにばっちり嫌われます。小学生か
- 後日、舞踏会で出会った男性の印象について語り合うベネット姉妹。組手をしながら。
- 「ダーシーさん? あんな高慢なゴフゥ!!……高慢な人は見たことがなグハァ!!……ないわ!!」
- ガールズトークの最中にもいい打撃がガンガン入る。喋らせてやれよ
- 長女ジェインに一目惚れした資産家のビングリーは彼女を自宅へ招く。馬で向かう道中で雨に降られ、ゾンビに遭遇し、退治するもビングリー邸で熱に倒れるジェイン
- その報せを聞き、姉の看病に駆けつけたエリザベス。ジェインのゾンビ感染を疑ったダーシーの放つ死肉蝿を全て空中でつまみ取り、握りつぶして返す
- タツジン!!
- 確かに握りつぶすときの腕の筋肉が良かった
- ジェインの回復を待って、エリザベスもビングリー邸に滞在することに。ビングリーの妹とは女性の嗜み、すなわち兵法や東洋武術について語らうも、エリザベスを見下して歓迎していないのは明らか
- お互い日本や中国の格言を引用して皮肉を言い合うのだが、訛りすぎてて何言ってんだか分かんねえ
- 謎の東洋信仰が物語に適度な胡散臭さを加えていて大変良いと思います
- ジェインは回復し、エリザベスと共に帰宅。そしてベネット家の資産相続権を持つ従兄弟のコリンズ牧師が訪れる……
以上、ほんの導入だけでこの有様。
このように「ごく自然に」ゾンビと銃火器、武術や剣術を混ぜ込んできますが、困ったことにストーリーの根幹は揺るぎなく「高慢と偏見」です。もちろんゾンビと辻褄を合わせるためと尺の都合? で多少の改変はありますが。
何がおかしいかと言えば何もかもがおかしいのだけれど、中の人たちは大真面目にラブロマンスを演じているし、画もカッコイイのでこちらは半笑いにならざるを得ない。大笑いはできないんだけど、終始じわじわトロ火って感じで面白いの。ホント困る。
その他、個人的見どころ。
- 歴戦の兵士のように銃の手入れをするベネット姉妹
- 不穏な気配を感じて一斉に銃を抜くベネット姉妹
- 不愉快なコリンズ牧師のプロポーズを断り、八つ当たりで庭木を滅多打ちにするエリザベス
- プロポーズを受けるや否やダーシーに襲いかかるエリザベスと応戦して斬りかかるダーシー
- 失恋の痛手を癒すため、日本刀で庭木に八つ当たりをするダーシー
- ついにはロンドンの対ゾンビ最前線で丸太を手に大群と渡り合うダーシー
- みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!
- 英国一の剣の使い手にされているキャサリン夫人
- 「そのアイパッチはオシャレで?」「実用よ」
- 邂逅後、互いに背中を預けて戦うと思いきや、揃って地面に剣を突き立て続けるエリザベスとダーシーの地味な画(地中からゾンビが湧くから)
やっぱりふざけるならば真面目にふざけなくてはいけないのだよな、とこの映画を見て改めて思います。作品それ自体はネタの塊ですが、「これはギャグですから」という言い訳を一切しない潔さがあります。ゾンビ映画にありがちな安っぽいB級感に逃げてないんですよね。
真っ当にハイレベルな画作りと演技だからこそ生まれるおかしみには「馬鹿馬鹿しい」「くだらない」とは決して言わせない真摯さがあります。
おかげでこの映画、一体どの層を狙ったのかさっぱり分からない代物になっていることは否めませんが、完成度の高い作品であることは確かです。ゾンビ好きにもラブロマンス好きにもおすすめ……は迂闊にできないけれど、観て損はしないと思います。
なおブーメラン空手を好むような物好きには普通におすすめします。おわり。