「口入屋兇次」(2回目)-Kindleで読んだ漫画40

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 2016年で一番読み返した漫画だと思います。あまり話題にならず3巻で終わっちゃったんですが、この漫画の完成度は尋常ではない。1巻を読んだ時点で大当たりだったと書いていますが、結局全編通して最高でしたよ。

 

  口入屋とは江戸時代の職業斡旋人のこと。兇次の口入屋という仕事と、商品である「人材」の奉公先での仕事をそれぞれ描くお仕事漫画となっています。

 1巻は女郎部屋の経営立て直しを依頼された経営コンサルタントのお話でしたが、2巻3巻では身に覚えのない罪を着せられ店をクビになった呉服屋の手代・伊助が古道具屋で店主不在中の店番を任されます。

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  この伊助、1巻に登場した人材・お絹さん同様に超有能。呉服屋とは勝手の違う古道具屋で全く新しい商売を作り出してしまいます。それは客のひとりひとりに合わせて着物だけではなく簪や櫛といった小物を含めたトータルコーディネートを提案するという、いわばコンシェルジュ。

 呉服屋では人気役者・八代目成田屋の装いを受け持ち、その好みを知り尽くしていた伊助。彼が見繕った娘の服装が成田屋の目に留まり、それを褒めたことから噂は爆発的に広まります。

 古道具屋には若い娘たちが列をなし伊助の見立てを望むように。そして耳目が集まったその好機を逃さずに伊助は次の一手を打つ。

 あんまり書いちゃうと読む楽しみを奪ってしまうので伊助の仕事に関してはここで止めときますが、狙った仕込みや工夫がハマるサクセスストーリーの面白さがぎゅっと詰まっています。つくづくお仕事漫画なんですよこれは。

 

 ちょっと話がそれますが、これは最近流行っている「異世界チート」ものに通じる部分があるのではないかと思いました。ちょっとだけですけれど。

 つまりは現代の仕事のやりかたを江戸時代に持ち込んだらどうなるか、という思考実験。チートの程度は違えど中世ヨーロッパに現代日本の居酒屋をぶち込むのに似てませんか。似てませんねごめんなさい。

異世界居酒屋「のぶ」(1)<異世界居酒屋「のぶ」> (角川コミックス・エース)

異世界居酒屋「のぶ」(1)<異世界居酒屋「のぶ」> (角川コミックス・エース)

 

 

 閑話休題。

 伊助は「商いとは人と人とのつながり」を地で行くような人間で、次第に客は伊助に会いたくて店に集まるようになります。

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 そうなると当然気になるのが、伊助が呉服屋をクビになった事情。得意先の娘を手篭めにしようとして捕まったというのがその理由ですが、人格者の伊助がそんなことをする訳もなく、彼を陥れようとした黒幕がいるわけです。

 これはお仕事漫画だと書きましたが、同時にガチガチの時代劇でもあります。つまり真実を突き止めるミステリーと、悪党に制裁を加える勧善懲悪。考えてみれば水戸黄門やら暴れん坊将軍やらのエンタメ時代劇は基本「ミステリー&暴力」ですよね。

 兇次の商う人材は訳あり人が多く、トラブルに巻き込まれていることも多々あります。そこで俺の商品に手ェ出すやつは許さねえ、とばかりに元を断つ。悪人退治は口入屋という仕事と表裏一体、裏の顔というわけです。

 で、またこれが小気味いいんだ。悪党どもは派手な立ち回りでズンバラリンと斬られ、  はせずにとっ捕まって拷問やら何やらとひどい目に合わされるのが大変良い。こいつらがむごい仕打ちにあって本当に良かった、と言えてしまうぐらいの外道をきっちり描けているということでもあります。

 単行本1冊強の分量で無理なくこれほどの話を両立させるのって奇跡的なバランスだと思うんです。とんでもない構成力。

 

 さらに悪党は始末するばかりではなく、小物は更生させて商品にしちゃったりもする。伊助の件が落着した後に、続くエピソードとしてそんなお話が描かれます。更生にかけられるのは伊助に襲われたと狂言を打った大店の性悪娘。

 こちらは悪党の出ない人情話になるんですが、こういう話を勧善懲悪の後に続けて持ってくるのも素晴らしい。途中でフェードアウトした登場人物を無駄にしないで中心に据えて来るのが意表を突くし、人材を派遣するだけではなく、人材を作り上げるという口入屋の仕事の幅広さまで描いている。

 それをやるのがかつて兇次に生きる道を与えられた仲間たちであり、その彼らが新しい人材とその生きる道を作る。兇次を中心とした系譜のような繋がりが感じられて作品の構造的な深さがぐっと増すんです。

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 チョイ役の籠屋でもこんな人がいたりして。伊助のエピソードには頼れる仲間として1巻のお絹さんが出てくるし、読み返すのが楽しい楽しい。

 連載が続けば続くほどこの構造はより強固になるはずなので、さらに面白くなるはずだったのになんで終わっちゃったのか。非常に勿体無い。

 ただ、ラストはいくらでも次に続けられる終わり方をしているので、多少なりとも売上に貢献できれば2ndシーズンの開始に繋がったりはしないかと期待してこれを書いております。

 本当に面白いので是非読んでください。そしてできれば買って発行部数を伸ばしてください。なぜなら俺が続きを読みたいからです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

口入屋兇次 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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口入屋兇次 2 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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口入屋兇次 3 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

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