気軽に遊べる激ムズアクション「Cuphead」

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 SteamやXBOXでリリースされるや否や、2週間で100万ダウンロードの売上と圧倒的高評価を得たCupheadというアクションゲームがあります。

 美しい水彩画を背景にレトロなカートゥーンのようなデザインのプレイヤーキャラクターや巨大ボスが滑らかに動き回る。どんな技術でこのアニメーションを実現したのかと言えば「全手書き」の力技だというから笑ってしまう。

 そのビジュアルにピッタリ嵌ったジャジーな音楽も相まって、トレイラーを観れば一発で理解できてしまう馬鹿げた完成度ときたら。

 だから動画で分かることはいちいち褒めませんが、プレーすればこそ感じるその中毒性について書きたくなったので。

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 ゲーム自体は普通の魂斗羅です。空中ダッシュやシューティング面もあったりしますが、まあ魂斗羅です。シンプルな操作で意のまま軽快に動かせるよくできた魂斗羅です。

 で、激ムズ。全ステージ初見殺し満載でもう死ぬ死ぬ。超死ぬ。それでもステージクリアするまでコンティニューしつづけてしまう。それは何故か。

 このゲーム、1ステージがめっちゃ短いんですよね。どのステージも普通に攻略すれば2分前後で終わる。ステージクリアしてそれなので、速攻やられて30秒程度で終わることもザラ。そして無限に即時コンティニューが可能。つまりこの手のアクションとしてはリトライのサイクルが異常に短いんです。

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 初見殺しアクションとはすなわち「覚えゲー」ですから、何度も何度もブッ殺されて攻撃の回避パターンや効率の良いダメージの与え方を覚えていく、その部分にこそ面白さがあります。それを非常に効率良くできる作りになっているんですね。

 言い換えれば短時間で上達を実感できるゲームになっている、ということ。初見ではとても躱しきれないボスキャラの攻撃の数々も、その「起こり」は非常に分かりやすくなっていて、知ってさえいれば多少の技術で回避できるようになっている。だからやられてしまうのは自分の操作ミス・判断ミスだと納得しやすいんです。

 だからその都度「次は同じミスをしない」「次こそはいける」と思えてコンティニューにつながる。感じ方はその人のアクションゲーム好き度合いで変わりますが、俺は心の折れない絶妙な匙加減だと思います。これは「魔界村」シリーズに似た感覚。 

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 例えばこの女王蜂のボスなんかは「次はここから出てくるよ」とわざわざ指差して教えてくれてます。それでも何度も死ぬんですが。

 俺は特別アクションゲームが上手いわけでもないので、最序盤以外はどのステージでも少なくとも10回以上、多いところでは30回ぐらいはコンティニューしたと思います。それだけ繰り返しても1ステージ30分程度でクリアできるというのも良いところ。

「激ムズ」なのに「気軽に遊べる」とタイトルをつけたのはそれが理由で、1日1~2ステージづつチマチマ遊ぶのに丁度いいんですよね。小一時間でゲームの上達とステージを征服した充足感が味わえるのは難しいからこそ。短い時間にギュッと凝縮されたプレイ感ゆえに、気がつくと奥歯を噛み締めながらプレイしてる自分がいたりする。

 ラン&ガン(ザコステージ)とボス戦を完全に別のステージとして分離したのも上手い発明で、巨大ボスとの連戦というコンセプトはメガドラの名作「エイリアンソルジャー」あたりがベースになってるんじゃないかなーと推測します。

 そのエイリアンソルジャーにしてからが「ザコ戦は体力回復アイテムや武器エネルギーを補充する場」という割り切りぶりだったのですが、それでも本番のボス前にダメージを受けちゃうことは多々ありました。

 同じ「死にゲー」の例を挙げれば「DARK SOULS」シリーズなんかはボス直前のセーブポイントですらボスまでの道中にザコが居るし(しかもそれが強いし)、たとえ敵のいない一本道でも何度も瞬殺されてるとボスの場所まで歩いて行くことすらダルくなってきます。

 一方でCupheadはボスにやられてもロードなしで即リプレイ可。デスペナルティもなく、システム的には全くのノーストレス*1で延々メインディッシュのボス戦だけを楽しむことができます。

 だからこそ理不尽とも思える初見殺しが許されるし、むしろそれこそがパターンを覚えて攻略していく楽しさを高めてくれているとも言えます。反射神経だけで対処できるほどヌルかったら、繰り返しプレイするまでもないわけですから。

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 やられた後で初めて「どれだけボスにダメージを与えたか」が分かるようになっている点も心憎い。ゴールのフラッグに向けて走るcupheadのマーカーでステージの攻略度合いが分かります。バトル画面にボス体力ゲージなどを表示してしまうよりも緊張感を維持でき、なおかつ到達点を示すことで上達を可視化してくれる良い方法だと思います。

 途中の区切りはボスの攻撃パターン変更ポイント。「あともうちょっとで倒せてたのに!!」というのは言うまでもなくリトライを促しますし、短いボス戦の中に第一形態・第二形態といったチェックポイントを明示的に示すことで「せめて次はそこまで行ってやる」というやる気を喚起します。

 

 以上、まとめると「Cuphead」は何度も何度も何度も何度も何度も死んでは同じステージを繰り返すことを前提にデザインされているゲームと言えます。そしてそれを苦にさせない工夫がそこかしこに盛り込まれたゲームです。

 アクションゲームそのものの面白さが飛び抜けているからこそここに書いたようなシステム面も光るわけですが、これはもう制作サイドが「2Dアクションゲームの面白さ」をしっかり見据えていたがゆえに生まれたシステムデザインだろうな、と感じられるのがなんか嬉しくてね。

 各所に散見される名作ゲームのオマージュなどにも表れていますが、これを作った人たちは昔ながらの2Dアクションゲームが好きすぎる。それら愛すべきゲームの単なる模倣にならず、しっかり咀嚼・分析して洗練された再構築を施し、おまけに異様なハイクオリティのレトロアニメの皮まで被せて。そりゃこんなもんヒットするに決まってる。

 これが1980円で遊べちゃうんだから良い時代になったもんです。

*1:ボスにブッ殺されることのストレスは知らん