ジャック・ニコルソンの顔芸映画「シャイニング」他 ー 最近観た映画の感想
シャイニング
扉の隙間にお父さんの顔が挟まるシーンで有名な映画。
学生時代、聞いてもいないのに映像美がどうのこうのとキューブリック映画を語る知人が居たもので同監督の作品はなんとなく避けがちだったのですが、観たら普通に面白かったですよ。
冬の間、雪に閉ざされるホテルの管理を請け負った一家の父親が発狂して妻と息子を殺そうとする話。その過程でお父さんが挟まる。
映画版は要約すると本当にそれだけ。原作小説の内容をバッサリ切り落としているらしく、納得のいかなかった原作者のスティーブン・キング本人が改めて録り直した別バージョンがあるそうで。
実際、キングの長編だったらもっとしつこいほどに設定やディティールがあるはずで、こんなにあっさりした脚本にはならないよな、とは思います(原作未読)。
しかしながら、それはそれとしてこの映画は面白い。お父さんが完全に発狂して家族を襲いだすまでは大したことは起こらないし、発狂後もプロットとしては普通の殺人鬼スリラーなのですが、それでも2時間の映画を持たせるのがお父さん役、ジャック・ニコルソンの素晴らしき顔芸。
盛りだくさんの顔芸で徐々に狂っていく → 完全に狂って殺人鬼と化した演技があまりにも見事で平坦な展開を全く飽きさせない。
画角への異様なこだわりも感じますね。通路をやたらとカッチリした左右対称の構図で撮ってるシーンが多かったり、ホテルならではの広い空間を思いっきり引きで撮ってみたりとか。この辺、ものを知らない俺が下手に語ろうとすると前述の「映像美さん」みたいになりそうなのでやめときますが。
あと、最近古い映画を観てると思うのですが、「このシーンどうやって撮ったんだろ」的な興味は尽きませんね。通路の向こうから大量の血がドバッシャア、と流れてくるところなんかは実際にやってるんですよね、あれ。
昔の映画を観る面白さって、そういったことを想像する部分にもある気がします。
残酷で異常
ちょっと前にTwitterのタイムラインで話題になってたやつ。フォント含め、ぞんざいな直訳邦題となげやりなサムネですが、なるほど、タイトル通り異常なシチュエーションサスペンスで結構好みのやつ(別に残酷ではなかった)。
妻を殺してしまった男が、タイムループで繰り返しその瞬間を追体験することになる。そして毎回、殺害後に送り込まれる謎の教室。そこには家族を殺してしまった人間が集められており、一人ひとり自分の罪を告白することを求められる。
で、何故か罪に関してグループディスカッションをさせられるあたりが大変に欧米らしい。何度も自分の罪を強制的に繰り返させては告白させて後悔と反省をさせるという新しいタイプの地獄でございます。
精神攻撃系ではありますが、罪に応じてエンドレスで苛まれ続けるあたりは東洋の地獄っぽさがありますね。血の池、針の山、グループディスカッション地獄。
妻殺しは不可抗力だったと罪を認めない男はこの世界から抜けだすためにあがき続ける。そのループの中でいろいろな事実を知り、心の底から反省したときに解放される、的な話かと思いきや、この男が反省しねぇわ脱走を諦めねぇわ、性格的にも共感できる部分がほぼ無い。
ループの中で手を尽くして悲劇を避けようとしても結末は変えられない。そんな1ミリも進歩のないループが延々繰り返されたあと、あるとき劇的な変化が持ち込まれる。
そこからの落としどころが良かった。男はきっちり報いを受けるが、本人的には満足しているし、最初の状態よりも不幸になった人間はいないという意味ではある意味ハッピーエンド。
こういうアイデア一本勝負で予算少なそうなワンシチュエーション作品が好物なので結構楽しめました。
ザ・ファブル
総じて原作再現度が高くてよく出来てました。特にジャッカル富岡は漫画からそのまま取り出して来たかのようなビジュアルとつまらなさで素晴らしいですね。別にそんなもん忠実に再現しなくていいんですが。
邦画でアクション映画というとどうしてもショボいんじゃないかと思ってしまうんですが。「殺さない」縛りゆえのパルクールや近接格闘を含めたガンアクションは岡田准一の動きの良さもあって見ごたえあり。
無双シーンのやられ役のためとはいえヤクザが兵隊集めすぎな気はするものの、まあそれはご愛敬。『虎狼の血』の時も似たような感覚がありましたが、洋画だと気にならないところが、邦画だとより身近なリアリティを感じやすい分だけ違和感を覚えたりしますね。
あと柳楽優弥と向井理がいずれも原作通りのクソ野郎役で登場するのですが、お互いに怪演といいますか、クズ役があまりにも上手すぎたため、そこそこの尺が取られているこの二人のバトルが全く盛り上がらないのは笑いました(どっちが勝っても心底どうでも良いため)。
岡田准一の佐藤アキラはやっぱりちょっと歳とりすぎなことを始め、ビジュアル的な意味では違和感のあるキャスト(特に向井理の砂川と安田顕の海老原)も多いんですが、観てるうちに慣れるというか、これはこういうモンとして受け入れればありですね。
佐藤二郎のタコちゃん社長は相変わらず佐藤二郎だったんですが、やりすぎないちょうど良い塩梅の佐藤二郎で良かったです。 佐藤二郎は用法・用量を守って使いましょう。