「ゾンビーバー」のエンディング曲が頭から離れない ー 最近観た映画の感想
鍵泥棒のメソッド
食い詰めた売れない役者が、銭湯で転んで病院送りになった男の荷物をどさくさまぎれに盗んでしまった。良心の呵責を感じつつも男が記憶喪失になったのをいいことに成りすまして羽振りの良い生活をしていたら、実は男の正体は伝説の殺し屋で、クライアントから新たに殺しの依頼を受けることになってしまう。
「アフタースクール 」の監督ということで、最終盤で意外などんでん返し(だった気がする。内容忘れたからまた観よう)にやられる話を想像していたのですが、どちらかというと、着実に積み上げた伏線をきれいにまとめて消化する、といった感じです。意外性に殴られるタイプの脚本ではありませんでした。
もちろんだから良くないという話ではなく。場面場面のちょっとした違和感の正体に、後からなるほどそういうことか、と膝を打つ、そういう形での脚本と演出の妙。俺これすげえ好きです。
売れない役者の堺雅人はとことんだらしないダメ男なのですが、本質的なところでお人好し。きっちり「憎めないクズ」をやっています。
一方の殺し屋、香川照之は生来の真面目さ、几帳面さ、地道な努力で記憶を失ったまま役者として実績を積んでいく。裏稼業の人間なのに、その素顔は実直な好人物。
入れ替わりによって強調されるこのコントラストが本当に楽しい。どんどん香川照之が好きになっていく一方で、右往左往する堺雅人も「憎めないクズ」ポジションをしっかりキープ。ダメな奴なんだけど助かって欲しい、そう思えるのは台詞回しと相変わらずじんわりとした顔芸のおかげでしょうか。
ヒロインの広末涼子も一番の常識人に見えて実はナチュラルにネジが外れているタイプの優等生キャラという、面白い立ち位置(フィクションでは結構ありがちだけど)。俺、多分この人の演技を見るのは初めてで、よく大根役者と言われている印象があったのですが、全然そんなことないのでは。
基本、あんまり感情を出さないタイプのキャラだったので粗が出にくいということもあるかもしれませんが、それでも無表情が剥がれ落ちて時折垣間見える感情の演技は普通に良かったと思います。
しっかりとした脚本の上でメインの3人がしっかり仕事しており、カメラワーク含めた演出面も巧妙。まさに盤石といった趣で誰にでもおすすめできます。
演技指導のシーンとか本当に好きだわ。
ゾンビーバー
B級パニック映画はだいたい一人で観るのですが、今回たまたま嫁さんを付き合わせてみたらずっと嫌そうに観ていたのに、終盤の怒涛の展開で案外楽しめちゃったらしく、「クッソこんなので……」ってなってたので謎の勝利感がありました。
タイトルだけでもはや何の説明も要らないことがお分かりいただけると思いますが、廃棄物で凶暴化&不死化したビーバーの群れに襲われて登場人物がだいたい死にます。
湖畔のキャビンに集った若者が順次死んでいく映画では、最初の死人はこっそり抜け出して外で行為におよんでいるビッチかヤリチンのどちらかと相場が決まっているのですが、この作品に登場する若者たちは全員クソビッチとヤリチンなので誰から死ぬのか全く分からないという点で非常に斬新といえます。
下ネタトークは普通に不快ですし、登場人物の性格も概ね最悪ですが、おかげで誰が死んでもこれっぽっちも心が傷まないのが非常に良い点です。
唯一辛いのは犬を犠牲にして逃げるシーンですが、エンドロールで見られるNGカットで大変ほっこりして救われるようになっています。すばらしい。
明らかにショボいパペットのビーバーが、もぐらたたきのように床をぶち抜いて襲ってくる。タイトルに違わず失笑もののシーン満載なんですが、それでもこの映画が楽しく観られるのは役者の演技がガチだからです。
ぬいぐるみ相手に本気で怯え、本気で逃げ惑う。「ゾンビ」のみでなく、「ビーバー」まで感染したビーバー人間となって、獣の動きで生存者に襲いかかる。
低予算だから、ジョークだからと妥協せず、大真面目に悪ふざけをしている。俺にとってのB級映画の良し悪しはその辺りにラインがあるのだなあと実感しました。どうせ観るなら真面目に頑張ってる馬鹿を観たいもんですね。
※別におすすめはしません。
search/サーチ
映画の全てがPCの画面だけで展開されるサスペンス。行方不明となった娘をWEBを駆使して探す父親の話。
「全編PC画面」ばかり取り沙汰されがちですが、むしろ肝となるのは情報の見せ方や使い方。娘のSNSをハックして洗った交友関係や過去のぼやき、ニュースや素材画像に至るまで、全てがWEB上にあるものなので、後から掘り出すのも容易。
一度はさらっと通り過ぎた情報をどんどん掘り出し直して、点と点がみるみる繋がっていく展開が実に見事で、このスッキリ感のためだけに観ても損はしないと思います。
WEBの情報だけで真相にたどり着く父親はまさに現代の安楽椅子探偵。あまりに性能高すぎなのではと思いもしたのですが、よく考えたら鬼女板の人たちもこのぐらいサラッとやってのける気がするし、集合知で事件を解決する、そんな映画が観たい。ジャンルがホラーになるけど。
PC画面だけなのに人間模様も妙にリアルで、チャットアプリ上で展開されるぎこちない父娘関係や、娘を探そうとしてその娘のことを何も知らないことに気づいて呆然とする父親。必死で娘の手がかりを探す父に塩対応だった娘のクラスメイトが、報道で失踪事件が有名になるや、途端に親友ヅラで涙ながらの呼びかけ動画をSNSにアップするなど。
したり顔で事件を語りだしたクラスメイト連中は全員炎上して骨まで燃え尽きればいいのにと思いました。そしてその手の気持ち悪さの表出含め、ネットらしさのフレーバーが上手に使われているのも良かった。
この映画は先にやったもん勝ちというか、以降はどうしたってパクリにしかならないのでフォロワーは出てこないと思われます。ネタが古くならないうちにさっさと観てしまうのがおすすめです。