ある用務員
『ベイビーわるきゅーれ』をいたく気に入ったので、過去の阪元裕吾監督作品をいくつか観ております。
恩義のあるヤクザの親分の娘を、高校の用務員に扮して密かに護衛する男の話。親分の死を機に大量に送り込まれた殺し屋から娘を守るアクション映画。
その辺の一般人っぽい殺し屋がわらわら登場する辺りが『ベイビーわるきゅーれ』にも通じる世界観を感じさせます。というか、『ベイビーわるきゅーれ』の二人組もコンビの殺し屋(別人)として出演しています。
阪元作品はこの後『黄龍の村』とか『最強殺し屋伝説国岡』なんかも観るんですが、中でもこれは一番シリアスでアクションに振った作品。
最近の作品だけあって完成度は高い方だけど、一番無難な感じでもあり。阪元作品の面白さってアクションやバイオレンスだけではなく、日常パートにおける妙なリアリティというか、それを生み出す小ネタのはさみ方や人物描写にもあると思うので、魅力の一部を自ら封じてしまっている気はします。
ニコニコしながら敵も部下もサックリ殺すラスボスのキャラクターとかすごく良いんですが、まあそこそこ普通の映画だなと。
サンズ・オブ・ザ・デッド
ゾンビ禍の街から逃げ出すため、車で飛行場を目指し走る主人公と恋人。なんか色々あって車がスタック、単独で歩いてきたゾンビに恋人が食われる。
という導入を速やかにこなし、「砂漠のど真ん中でゆっくり歩くタイプのゾンビから延々逃げ続ける」という面白シチュエーションへ早々に突入します。
立ち止まると死ぬという点で『死のロングウォーク』を連想します。それと同様に極限状態に追い込まれた人間の心理がどのような変化を迎えるか、というのが見どころだと思うのですが。
諦めずにどこまでもついてくるゾンビに悪態をつきながら、孤独に耐えて歩き続ける主人公。ついには惟一の話し相手、健気なゾンビに情が湧きます。
いや、そうはならんだろ。
随所でそんな感じの変な笑いが出るんだけど、このずっと半笑いになってしまう感じというのが案外好きです。ゾンビつながりというわけではないですが『高慢と偏見とゾンビ』や『ロンドンゾンビ紀行』を観たときのような。あるいは無人島でバレーボールと喧嘩する人を観たときのような。
極限状態での狂気を描いている、というようなことは全然全くこれっぽっちもないB級バカ映画ですが、ずっと真顔でボケ続けてる人たちを眺めたい向きにはおすすめです。
いや、別におすすめではないわ。ごめん。俺は好きですが。
黄龍の村
阪元裕吾監督作品3本目。これはめちゃくちゃ面白かったわー。
『ミッドサマー』なんかと一緒に「村ホラー」というジャンルに括られるらしいんですが、人里離れたカルト集団の村に迷い込んだ他所者の恐怖体験を描くやつです。
確かにジャンルとしてカテゴライズできるぐらいには似たようなシチュエーションのホラー作品は多い気がします。が、この映画は途中からとんでもない方向に舵を切ります。
こんなもん絶対ネタバレしちゃ駄目なやつなので何も書けませんが、66分というかなり短い映画であるにも関わらず十分な満足感があるのは脚本の意外性からくる「盛りだくさん」感によるものだと思います。
『ベイビーわるきゅーれ』や『ある用務員』と比べても低予算であることが露骨にわかる作りなのに、最早それすら面白い。
典型的な村ホラーのテンプレに則って、糞ウザいウェイ系の学生たちを殺していくんだけど、部分部分で妙にチープで「笑ってはいけない」みたいになってるのが逆にリアルに思えたりするわけです。
「昔から続けているけれど、もう理由も分からなくなってるので儀式の作法がだんだん適当になってきてる」的な。生贄の肉をバーベキューコンロで焼くんじゃない。笑うだろ。
上映館は少ないですが、観られる環境にあるのなら是非おすすめしたい。
ちなみに先日始めたポッドキャストの1回目がこの映画の感想になります。
ネタバレしかないので観てない人は聴かないほうがいいです。というか聴かないでいいので観ましょう。
自ら視聴者を減らしていくスタイル。
ゼイリブ
異星人による地球侵略は既に始まっていた。人間に擬態した異星人を見抜くサングラスを手に入れて真実を知ってしまった男はレジスタンスの一員となる。
あらすじだけは知ってて前から観たいと思ってたんですが、そのストーリーはさておき、サングラスをかけることで明らかになる「真実の世界」のビジュアルがめちゃめちゃ面白いんですよね。
骸骨みたいな異星人もいいデザインですが、広告や新聞・雑誌の内容がアホほどシンプルに要約される画が非常に皮肉が効いていて良い。
「OBEY(従え)」「NO THOUGHT(考えるな)」「CONSUME(消費しろ)」。こういうディストピアが現実ですよ、という資本主義に対する風刺は30年前の映画にもかかわらず未だ全く違和感がない。異星人のヒトたちは毎日これしか見えてないと思うんですがそんな星侵略してて楽しいんだろうか。
こういう唯一無二のビジュアルに加え、ワープしたり星間移動ができるほど文明が発達しているのに抵抗勢力を潰すのに警察権力を使う異星人とか、サングラスをかけるかけないで揉めて路地裏で殴り合うだけのシーンがやたらと長かったりとか、いい具合にツッコミを入れたくなるポイントも内包しており、カルト映画として語り継がれるのも納得の作品です。
この作品自体は飛び抜けて面白いというわけでもないのですが、引用のし甲斐があると言いますか。たまたまこのツイートがふと目に入ったときには大笑いしました。
「鬼になれ」「ならない」でずっと路地裏で殴り合うカーペンター版鬼滅の刃
— ろーかすと(虫ライダー) (@LOCUSTBORG) October 15, 2021
どんなことでも知識として持ってると色々楽しめることが増えていいよね、という話。