B級ホラービッチ無双『ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ』他 ー 最近観た映画の感想

プロミシング・ヤング・ウーマン

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予告がもう面白い。

泥酔した振りをして、自分を「お持ち帰り」する男に鉄槌を下す女、キャシー。彼女は学生時代に巻き込まれた性犯罪によって自身の前途有望な将来を失っていた。

手当たり次第だったお持ち帰り男への復讐は、偶然学生時代の知人に再会することで一変する。かつて事件に関わった人間たちの幸福な現在を知り、キャシーは彼らにターゲットを定めた復讐を開始するのだった。

バカ学生が酒の勢いと集団のテンションで行った性暴力。「こんなこと」で将来有望な若者の未来を閉ざしてはいけない、とそれを庇護した大人。被害者に寄り添わず、自業自得とあしらった傍観者。復讐の対象は加害者のみに留まらない。

同じような事件が報道されるたびに吹きあがる「自業自得」論には俺は心底うんざりするのですが、そういった既視感を覚えるような映画がアメリカで制作されたことにちょっと驚く。女性の人権に関しては日本より余程進んでいる印象があるのですが、こうやって問題提起されているということは実際のところは日本と大差ないんですかね。

まあこの手の事件で被害者を責める論調は本当にクソだとよく分かる映画でございます。

痛快な復讐と、それに伴い徐々に明かされていくキャシーの動機。展開がスリラー映画としてよく出来ているのは勿論のこと、キャシーの復讐方法が決して加害はせず、相手と同じ所に落ちないということを徹底しているのが良かった。

それでいて自分が何をしたかを自覚させ、それを心底後悔するような恐怖をきっちり与えているし、そういう復讐だからこそ真に反省し悔いている人間には手を出さない。そのことが結末に綺麗に結びついているあたりも見事。

最終的に何もかも巻き込んで諸共に地獄へ落ちんとするかのような復讐を遂げるわけですが、キャシー本人含め誰一人幸せにならないラストには本当に気が滅入ります。だからこそこの結末には圧倒される。加害者連中が残らず燃やし尽くされるであろう未来に爽快感を覚えつつ、かつ悲しい。

あと音楽が良かったです。

ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ

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亡くなった母親が20年前に出演していたカルトB級ホラー映画の世界に入り込んでしまったヒロインが、若き日の母と共にファイナルガール(ホラー映画で最後に生き残る女の子)となるべく奮闘するホラーコメディ。

殺人鬼の設定や映画の展開を知っていることを逆手にとって作戦を立てるメタ展開はホラー映画のお約束をいじり倒す『キャビン』を想起させますが、こちらは登場人物がそれに自覚的である分だけよりコミカル。

独特の効果音で殺人鬼が近くにいることに気づいたり、謎エフェクトが降ってきて回想シーンへ突入することが分かったり。

そしてヒロイン一行の介入でB級ホラーなら真っ先に死ぬはずのビッチさんが長生きしたりする。彼女の扱いが狂おしく好き。

一緒に映画に迷い込んだイケメンに対する特殊な求愛行動とか、現実から持ち込まれた向精神薬をバカ食いして最終決戦前にガンギマリになってたりとか。

ビッチが服を脱ぐと殺人鬼が現れて殺されるのがお約束だから、服の上からライフジャケットや手袋まで着こまされて待機。いざ殺人鬼との対決の準備ができたら「獣を解き放て!」の合図と共にリリースされて音楽に合わせて脱ぎ捨てていく。彼女がフラグ用アイテムとして作戦に組み込まれる展開が大変お気に入りです。

B級ホラー映画の世界だから人はバンバン死にますが、血はほとんど出ないしグロもなし。登場人物の雑でコミカルな死に様は笑いを誘いすらする。

ビッチさんがオッパイを出して殺人鬼をおびき寄せる瞬間もきっちり顔のアップにカメラを切り替えることでエロ回避。全編通して配慮が効いてて安心して観ることができる。無理に過激な展開なんか入れなくても面白い映画はちゃんと面白いんだよな。

B級ホラーらしく時間も短く、しっかりお約束を踏襲するオチもいいね。 

G.I.ジョー

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何だかすげえ装備の特殊部隊が大活躍する、何の変哲もないアメリカ万歳映画だ! ひゃっほう!

近々公開される3作目の「未曽有の忍者テロ」というコピーに惹かれて1作目のこれを観ましたが、これだけでお腹一杯になっちゃったよ。どうしよう。

「あらゆる金属を高速で腐食させる超兵器」が登場し、それの輸送任務が始まった時点で嫌な予感しかしませんが、言うまでもなく悪の組織に奪われて世界が征服されそうになります。

こういう投げやりな導入や、武力で世界を牛耳ろうとする悪の組織の陳腐さは様式美すら感じさせて嫌いじゃないです。脚本なんてどうでもいいからアクションと爆発だけ見てればいいというのが分かりやすいので。

どっからどう見てもCG丸出しのメカ戦闘とか、酸素マスクと片眼鏡をつけた古式ゆかしいデザインの悪のプロフェッサー等、2009年の映画とは思えない作りが逆に癖になる。

大作並みに金のかかった贅沢なB級映画ですねこれ。酒飲んだりスマホいじったりしながら適当に観ましょう。

パワードスーツで車を追いかけるカーチェイスは良かったです。なんか一杯爆発してました。市民めっちゃ死んでると思います。

あとはイ・ビョンホンが白いなあと思いました。登場するたびに「白い」「白いなあ」「ほんと白い」って。最後は無意味に脱ぎます。

刺されて海に落ちて死んだので多分続編で出てくるだろうなと思ったら、普通に2のポスターにでかでかと顔が載っていて面白かったし白かった。含みを持たせて退場させたんだから、ちょっとは隠そうとしてほしい。 

G.I.ジョー (字幕版)

G.I.ジョー (字幕版)

  • チャニング・テイタム
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ATOM Cam2が安いし楽だしすげえ面白い

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うちの自治体、ゴミ出しは決まった曜日に自宅の前に出しとくと業者さんが回収していってくれるんですが、マナーの悪い人がうちの前に時間外のゴミを捨てていくことがありまして。

腹立ったんで監視カメラを取り付けました。ATOM techのATOM Cam2。

前身のATOM Camはクラウドファンディングで企画された格安のネットワークカメラなんですが、最近リリースされたこの2でIP67防水防塵になり、屋外でも使用可能に。監視カメラとして使えるようになったわけです。

うちは設置してから3週間ほどになりますが、2つ目を買い足すぐらいには良いです。

まず屋外に置けるカメラとしてはアホみたいに安い。1個2980円(送料別)。安いWEBカメラぐらいの価格なんで、ぶっちゃけ半年ぐらいで壊れても許せる。

そして一般的な監視カメラに比べて設置のハードルが非常に低い。

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この同梱品の右上の円盤はただの鉄のプレートですが、これをネジないしは両面テープ(赤いの)でどこかに固定してやれば、本体台座に仕込まれた強力な磁石がくっついて本体の固定も画角の調整も簡単にできます。本体が軽いのでそんなもんで十分なんですね。

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うちは玄関が引き戸でレール部分がせり出しているので、ひとつはその上に乗せてます。もうひとつは窓枠にプレートを両面テープで固定。

台風などでずれたりしないかという点は未検証ですが、位置を直すのは簡単だし、万が一落ちて壊れてもまあ安いし。

あとはUSB 5Vの電源を確保するだけ。「だけ」といっても屋外なのでこれが一番の難関ではあるのですが、見ての通り専用ケーブルはきしめん状の平ケーブルなので、窓越しに引っ張り出すのは簡単です。うちは普段開け閉めしない明かり取り用の高窓を利用しました。場所が合うなら換気システムの吸気口とかエアコンの配管用スリーブを使ってもいいですね。

ネットワークカメラなのである程度の強度でWi-Fiが届いている必要がありますが、その辺は中継器なりメッシュWi-Fiなりを使えば済む話なので、自宅設置の制約としては軽いものです。

ネットワークのセットアップも楽で、Wi-Fi接続済のスマホでアプリにログインしてバーコードを読ませるだけ。 

ATOM - スマートライフ

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電源を入れてものの数分で、スマホでリアルタイム映像を見ることができます。 

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場所が特定できそうな要素をぼかした結果、アスファルトしか残らず訳わからん事になってますが、自宅前の通りの映像です。これは深夜の映像なのですが、街灯のみの明るさなのにある程度アスファルトのディティールが分かるぐらいにはノイズは少ないので、監視カメラとしての役割は十分に果たせることがわかります。

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動体は自動検出してクラウドに保存。おかげで我が家の前は毎晩この茶トラさんがパトロールしてくださっていることが分かりました。最高かよ。

このクラウドデータは無料で14日間分保存。1回の記録は12秒間、一度記録するとその後5分間は検知OFFになってしまうので、イベントのタイミングによっては取りこぼしが出ます。

全てを記録しておきたければ月額500円のプランで記録無制限にするか、内部スロットにmicroSDを挿してローカル記録することになります。

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インターフェースはこんなんで、動体検出で記録されている特定の時間に飛んで再生開始。無料クラウドだけなら12秒で再生終了、SDがあれば12秒過ぎても再生が続くし、動体検出前にさかのぼって記録を見ることもできます。

ストレージはいつまでたっても満杯にならず、ずっと記録できているので、ドラレコのように古いデータを上書きし続けているのだと思います。

再生画をスマホに保存することもできますし、スマホからSDをフォーマットすることももちろん可能です。

このアプリ、Amazonを見るとものすごく評価が割れていて、まともに動かないというレビューも散見されますが、ありがたいことにうちでは今のところ大きな問題はありません。

時たまクラウドが重くて、なかなか再生が開始されなかったりコマ送りになることがあるぐらいでしょうか(時間をずらせば改善します)。基本的には外出先の4Gでもスムーズに動いています。

以上、安いうえに使い勝手のいい監視カメラとして、個人的な用途には申し分なしでした。何より設置が簡単で業者の工事が不要なのが一番嬉しい。耐久性がどんなもんかはまだ分かりませんが。

クラウドに情報を流すということに抵抗がなければ、とりあえず遊んでみるだけでも面白いかと思います。

先にも書いたように評価は割れているので、買う買わないはひとまずAmazonの高評価・低評価、両方のレビューを見て判断するのが良いです。

ちなみに買うなら公式サイトのストアのほうがちょっとだけ安いです。

(2021/08/22 追記)

Amazonも公式サイトと同じ値段(本体2980円+送料700円)になってました。

人を殺すタイプのバットマン『刑事グロム vs 粛清の疫病ドクター』他 ー 最近観た映画の感想

新感染半島 ファイナル・ステージ

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つまんなくはないんだけどね。

って最初に書いてしまうくらいコレジャナイ度が高い。

パンデミック発生の前作から4年後、半島はゾンビに埋め尽くされていた。香港へ避難して生き延びた主人公のチームは大量のドル札を積んだトラックを回収しに半島へ戻ってくる。

ミッションは成功するかと思われたが、暴徒化した民兵部隊の介入により回収チームは半島脱出の機会を失うのだった。

その結果展開されるのがゾンビサバイバルじゃなくて、ゾンビワールドでのマッドマックス。ゾンビじゃなくて、ヒャッハー共から逃げるカーチェイスがこの映画のメイン。それはそれで悪くはなかったんだけど、ゾンビがあんまり怖くないのですよね。

光や音に反応するというゾンビの修正を利用して車のヘッドライトで誘導したり、照明弾で敵にゾンビを集めるというのはいいアイデアで、ゲームならすげえ面白いと思うんですが、それはゾンビがある程度制御可能なオブジェクトに成り下がってしまっているということでもあるので。

悪役も無闇にヒャッハーしていて不快さがスリルを上回っちゃってるし、崩壊後の大都市を描くにはCGが安っぽい。車はマリオカート並にファンタジーな挙動をするからなおの事CGであるということが引き立ってしまう。

前作は特急列車内という閉鎖環境だから良かったんだなあ。 

トゥモロー・ウォー

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アマプラ独占配信。劇場で観たいという感想を多数見ましたが、俺はむしろ金曜ロードショー感覚でお茶の間で観たい映画だなと感じました。『T2』とか『エイリアン』とか、昔の大作映画の匂いがするので。

エイリアンとの戦争で世界人口が激減した未来。最後の手段として人類はタイムトラベルを開発し、エイリアン襲来前の世界(現代)に派兵を求めた。

タイムトラベルには適正があるため、軍隊をそのまま派遣することはできない。世界規模での徴兵が合意され、生還率20%のミッションに訓練を受けていない民間人が次々と送り込まれるのだった。行きたくなさすぎる。

ガバガバ戦略でいたずらに兵力を損耗させまくっている各国政府にはツッコミどころしかないのですが、アクション大作として初手から絶望的・いきなりクライマックスという話の早さは美点でもあります。細けえことはいいんだよ。

いきなり未来への転送座標ミスって派遣した兵士の大半が墜落死したのはあんまりだと思うけど。

エイリアンはでけぇわ速いわタフだわリーチが長いわ、おまけに圧倒的多数で人類を追い詰める。『スターシップ・トゥルーパーズ』を思わせる物量攻撃と紙クズのように死んでいく兵士。並の映画2本分ぐらいのエピソードがみっちり詰め込まれて、爆発炎上もドッカンドッカン。お茶の間で観るB級大作として文句なし。 

トゥモロー・ウォー

トゥモロー・ウォー

  • クリス・プラット
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ブラック・ウィドウ

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そつなく面白かった。けど優等生すぎてあんまり言うことがないな。

誰でも受け入れられそうな後味が『ベイマックス』とか『ズートピア』とかのディズニーアニメを観た後のそれにそっくりで、MCUはすっかりディズニー作品になったんだなぁと感じるなど。

事前に全く情報を入れていなかったので、まさかのファミリー映画だったのにも驚いた。「孤独な暗殺者は、なぜアベンジャーズになったのか。」というキャッチコピーは内容にかすってもいません。

Smells Like Teen Spirit」のダウナーなカバーで始まるオープニングに期待したら、コメディ要素たっぷりのほのぼのファミリー映画になるなんて思わないよ。面白いけど拍子抜けはしたよね。ヒーロー着地いじりはデッドプールでやってんだからもういいよ。

わだかまりを残しつつの姉妹のチームアップとか、パラシュートなしの垂直方向アクションとかすごく良かったですけどね。久々のMCUで観たかったのがこれかというと、俺は違いました。

刑事グロム vs 粛清の疫病ドクター

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NETFLIXオリジナルのロシア映画。邦題があんまりすぎるので思わず観ましたよね。

「自分がこの街を守らなければならない」という妄想に取り憑かれた金持ち(のツレ)が、財力にあかせて自作した装備で夜な夜な悪人を燃やして回る。

明らかにバットマンを意識した作りで、作中でもバットマンに言及しているのですが、触発された市民がマスクを被り模倣犯となることで治安が悪化する流れは『ジョーカー』もミックスされており、アメコミにおけるヒーローとヴィランの紙一重ぶりを思わせて良いです。

それを追うのが刑事グロムというわけで、特殊能力を持たない人間がどうやってヴィランを捕らえるのかという、アメコミヒーローものを逆転させたような建て付けの映画です。

こういう見た目も内容もコテコテにアメコミの影響を受けた映画がロシアで制作されているのがもう面白い。社会悪という「疫病」を火炎放射器で焼き払うペストマスクのヴィランというデザインはあまりにベタだけど格好いいし、ヴィジランテを追う刑事というのもド定番。

熱血刑事のイーゴリ・グロムは有能だが暴走しがち。犯罪者を捕らえはしたものの、街に大被害を出すところから映画は始まり、署長にクビだとなじられる。よくある「石頭の上司と目の敵にされる不良刑事」なのかと思いきや、この署長がすんげぇ良いキャラでして、次の登場シーンではイーゴリを自宅に招いて仲良くピロシキを包んでいたりする。

立場上、仕事で厳しく当たりはするけれど実際のところはイーゴリを実の息子のようにかわいがっている署長がめっちゃ好き。

加えてはみだし刑事と新人刑事のバディものでもあるし、自分の力しか信じない男が仲間の助けを借りることを覚える成長物語でもある。

ヴィランだけでなく、署長や仲間といった登場人物周りの造形が良かったので、続編が制作されるならぜひ観たい。だいぶ好みのやつでした。 

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IQが2になるやつ×2 ー 最近観た映画の感想

モータルコンバット

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観ているだけでIQが2になるやつ。

おっさんゲーマーないしは、日本語未対応の洋ゲーをゴリゴリやるヘビーゲーマーには説明不要の残虐格闘ゲームの映画化。

俺はシリーズ初期の実写取り込みキャラクターが真っ二つになったり爆散したりする、いかにも(当時の)洋ゲーといった趣の大雑把なゲームしか知りませんが、まあ映画もそんな感じだと思ってて差し支えありません。人の腕がもげたり人が真っ二つになったり人が消し炭になったりします。

説明。人間界と魔界の覇権を争う格闘大会「モータルコンバット」。人間界は既に9連敗しており、次に負けると人間界が魔界に支配されてしまうのだった。わかりましたか? わかりましたね?

このように初っ端からストーリーを投げ捨ててるあたり、「1ミリも頭を使わずにわかりたい」という需要をきちんと理解しているし最高と言わざると得ません。

わかりやすさと言えば、最近の映画って街並みに「モロッコ」だとか「ブダペスト」だとか、でっかい字幕で地名を乗せる演出をよく見ますが、荒れ地を映して「魔界」は流石にわかり易すぎて笑います。

ちなみにこの映画でモータルコンバットは開催されないんですが、我々は究極神拳の飛び交う格闘バトルが観られればそれで良いですし、その辺りは大会が開かれずとも十二分に満足させてくれるので全く問題ありません。

かように徹頭徹尾「わかり」の極まった映画でございます。

これまでもハリウッド映画では良く見かけたものの、ちょい役が多かった真田広之が主人公格の扱い(主人公は背景で氷を割る仕事)で、序盤から還暦とは思えない程のニンジャアクションを見せてくれるし、ラストバトルへの流れはカッコ良すぎて震える。さらに加えて火を吐くので100万点。真田広之100万点。

あと浅野忠信はずっと目が光ってました。

バクラウ 地図から消された村

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今から数年後の未来。ブラジルのとある小さな村が地図から消えた。

それと時を同じくして、村では不可解な出来事が次々と起こり、ついには謎の襲撃者により村人たちが一人ひとり殺されていく。

しかし村人たちは逃亡奴隷をルーツに持ち、反逆の歴史と共に生きる戦闘民族だった。よって調子こいた素人揃いの襲撃者たちは悲惨な目に遭います。やったぜ。

「戦闘民族」といってもそれは気概の話。めっちゃ強い登場人物がいたり、組織的な戦闘技術があるわけではありません。しかしながら、村人を殺されてただ怯えるのではなく、皆が淡々と反撃の準備を整えるという乾いた感じが実に良きかな。

村人の行動原理はシンプルで「やられたらやりかえす」。明らかに主人公やリーダーという登場人物はおらず、村全体が一つの意思をもって動くこの感じ。襲撃者が不可侵の領域に手を出してしまったということがビシビシ伝わってきてたまりません。派手なアクションは全くありませんが、それだけにリアルだし村人側の静かな殺意が引き立ちます。

いかにも南米の田舎町という風景の中で微妙に近未来ガジェットが使われて展開をスムーズにしている一方で、昔から面々と続いているのであろう村独特の風習なども描かれることでその対比が鮮やかに。独自ルールをお持ちの方々に生半可な手出しは命取りとよーく分かる作りです。

黒幕の「ルールが分かってない」感といい、まるで村の催しのように処分される流れといい、俺は非常に好きな映画です。

(他の人にとっても面白いかはちょっと自信がない) 

ゴジラvsコング 

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観ているだけでIQが2になるやつ。

理屈も辻褄も人間ドラマも全部かなぐり捨てて、巨大生物同士のカッコいい殴り合いに全振りした映画。『シン・ゴジラ』の対極にいるようなゴジラ映画ですが、対決ものとしてはこれで大正解でしょう。

前作の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』みたいな、極端な狂人思考でドライブされる人間ドラマなんて余計なだけだし、あれは怪獣バトルパートもガッチャガチャで俺はあんま好きじゃないんです(「お前が怪獣大好きなのは分かったけどさ……」ってなる)。

ともかく本作に関して「人間ドラマが」「脚本が」と言いながら低評価をつける人はそもそも観る映画間違ってるんじゃないかと思いますよ俺は。人間ドラマが観たいのならば、この世界にはもっといい映画がいっぱいあるので、そちらをご覧になるのが良いでしょう。

今回は身軽な動きと肉弾戦が信条のコングがメインの一方となるだけに、バトルが格闘主体になるのが良かった。前作みたいに熱線バチバチだと画面は派手になるけど、俺などはどうにも散漫な印象を持ってしまったので。

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翻って本作。予告で何度も流れたコングがゴジラをブン殴るこの瞬間など、全身のバネを使い、全体重を乗せてる感じの動きが最高だと思います。

事あるごとに熱線を封じられて、まさかの殴りで応戦するゴジラもまた至高。古代からのライバルという設定で、お互いの手の内を知り尽くしているという体の戦い方が本当にイイ。

ゴジラ有利な海上の戦い、ビルからビルへとコングが本領を発揮する香港での戦い。どの戦場でも双方の見せ場尽くしで、これを観た誰もが言っているようにどちらも主役、「どちらの格も落とさない」構成が見事です。

人間ドラマを完全に切り捨てた人間パートも、矮小な人間が地下世界で翻弄されるスペクタクルが描かれていて、これも『髑髏島の巨神』をさらにスケールアップさせた感じで良かったです。玉座とか斧とかのアホSF展開もワクワクが止まりません。

陰謀論者周りの話は見なかったことにします。

あと小栗旬の役は前作の渡辺謙の息子だったらしいのですが、その説明すらないレベルまで人物描写が削ぎ落とされているので白目剥く以外の役どころがなかったのがすげえ面白かったです。無理して日本人入れんでもいいのよ。

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ジャック・ニコルソンの顔芸映画「シャイニング」他 ー 最近観た映画の感想

シャイニング

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扉の隙間にお父さんの顔が挟まるシーンで有名な映画。

学生時代、聞いてもいないのに映像美がどうのこうのとキューブリック映画を語る知人が居たもので同監督の作品はなんとなく避けがちだったのですが、観たら普通に面白かったですよ。

冬の間、雪に閉ざされるホテルの管理を請け負った一家の父親が発狂して妻と息子を殺そうとする話。その過程でお父さんが挟まる。

映画版は要約すると本当にそれだけ。原作小説の内容をバッサリ切り落としているらしく、納得のいかなかった原作者のスティーブン・キング本人が改めて録り直した別バージョンがあるそうで。

実際、キングの長編だったらもっとしつこいほどに設定やディティールがあるはずで、こんなにあっさりした脚本にはならないよな、とは思います(原作未読)。

しかしながら、それはそれとしてこの映画は面白い。お父さんが完全に発狂して家族を襲いだすまでは大したことは起こらないし、発狂後もプロットとしては普通の殺人鬼スリラーなのですが、それでも2時間の映画を持たせるのがお父さん役、ジャック・ニコルソンの素晴らしき顔芸。

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盛りだくさんの顔芸で徐々に狂っていく → 完全に狂って殺人鬼と化した演技があまりにも見事で平坦な展開を全く飽きさせない。

画角への異様なこだわりも感じますね。通路をやたらとカッチリした左右対称の構図で撮ってるシーンが多かったり、ホテルならではの広い空間を思いっきり引きで撮ってみたりとか。この辺、ものを知らない俺が下手に語ろうとすると前述の「映像美さん」みたいになりそうなのでやめときますが。

あと、最近古い映画を観てると思うのですが、「このシーンどうやって撮ったんだろ」的な興味は尽きませんね。通路の向こうから大量の血がドバッシャア、と流れてくるところなんかは実際にやってるんですよね、あれ。

昔の映画を観る面白さって、そういったことを想像する部分にもある気がします。

シャイニング (字幕版)

シャイニング (字幕版)

  • ジャック・ニコルソン
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残酷で異常

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ちょっと前にTwitterのタイムラインで話題になってたやつ。フォント含め、ぞんざいな直訳邦題となげやりなサムネですが、なるほど、タイトル通り異常なシチュエーションサスペンスで結構好みのやつ(別に残酷ではなかった)。

妻を殺してしまった男が、タイムループで繰り返しその瞬間を追体験することになる。そして毎回、殺害後に送り込まれる謎の教室。そこには家族を殺してしまった人間が集められており、一人ひとり自分の罪を告白することを求められる。

で、何故か罪に関してグループディスカッションをさせられるあたりが大変に欧米らしい。何度も自分の罪を強制的に繰り返させては告白させて後悔と反省をさせるという新しいタイプの地獄でございます。

精神攻撃系ではありますが、罪に応じてエンドレスで苛まれ続けるあたりは東洋の地獄っぽさがありますね。血の池、針の山、グループディスカッション地獄。

妻殺しは不可抗力だったと罪を認めない男はこの世界から抜けだすためにあがき続ける。そのループの中でいろいろな事実を知り、心の底から反省したときに解放される、的な話かと思いきや、この男が反省しねぇわ脱走を諦めねぇわ、性格的にも共感できる部分がほぼ無い。

ループの中で手を尽くして悲劇を避けようとしても結末は変えられない。そんな1ミリも進歩のないループが延々繰り返されたあと、あるとき劇的な変化が持ち込まれる。

そこからの落としどころが良かった。男はきっちり報いを受けるが、本人的には満足しているし、最初の状態よりも不幸になった人間はいないという意味ではある意味ハッピーエンド。

こういうアイデア一本勝負で予算少なそうなワンシチュエーション作品が好物なので結構楽しめました。 

残酷で異常 (字幕版)

残酷で異常 (字幕版)

  • アニー・レノックス
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 ザ・ファブル 

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総じて原作再現度が高くてよく出来てました。特にジャッカル富岡は漫画からそのまま取り出して来たかのようなビジュアルとつまらなさで素晴らしいですね。別にそんなもん忠実に再現しなくていいんですが。

邦画でアクション映画というとどうしてもショボいんじゃないかと思ってしまうんですが。「殺さない」縛りゆえのパルクールや近接格闘を含めたガンアクションは岡田准一の動きの良さもあって見ごたえあり。

無双シーンのやられ役のためとはいえヤクザが兵隊集めすぎな気はするものの、まあそれはご愛敬。『虎狼の血』の時も似たような感覚がありましたが、洋画だと気にならないところが、邦画だとより身近なリアリティを感じやすい分だけ違和感を覚えたりしますね。

あと柳楽優弥と向井理がいずれも原作通りのクソ野郎役で登場するのですが、お互いに怪演といいますか、クズ役があまりにも上手すぎたため、そこそこの尺が取られているこの二人のバトルが全く盛り上がらないのは笑いました(どっちが勝っても心底どうでも良いため)。

岡田准一の佐藤アキラはやっぱりちょっと歳とりすぎなことを始め、ビジュアル的な意味では違和感のあるキャスト(特に向井理の砂川と安田顕の海老原)も多いんですが、観てるうちに慣れるというか、これはこういうモンとして受け入れればありですね。

佐藤二郎のタコちゃん社長は相変わらず佐藤二郎だったんですが、やりすぎないちょうど良い塩梅の佐藤二郎で良かったです。 佐藤二郎は用法・用量を守って使いましょう。

ザ・ファブル

 前の

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ロシアンマフィアがブチ切れたおっさんに壊滅させられるやつ ー 最近観た映画の感想

移動都市/モータル・エンジン

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かつての文明を吹き飛ばした「60分戦争」の後、人類は移動する都市を作り出し、荒廃した世界でわずかな資源を奪い合いながら生き延びていた。

他の移動都市を駆逐し、捕食することで拡大を続ける巨大移動都市ロンドン。逃げる小都市とのクソデカだんじり祭りに始まり、水上都市や空中都市、人間を襲う自律機械や古代文明の超兵器。

ポストアポカリプス、そして元より俺が愛して止まない超巨大建造物ものが錆びたスチームパンクに彩られ、なおかつ変形しながらゴリゴリ動きまくる。

こんなん好きな要素しかないんですが、残念なことにびっくりするぐらい面白くねぇんですよねこの映画。この設定でこんなにワクワクしない映画が作れるのは逆にすごい。

ヒロインの過去と復讐、<復活者>との約束、だいぶ要らない恋愛要素に反移動主義や超兵器の復活阻止等々、エピソードが山盛りで妙に話がとっ散らかってる割にその運びがやたらと間延びしてるので一つ一つが異様に薄味です。だもんで登場人物にも共感できないし、ずっと茶番を見ている感じで話が全然頭に入ってきませんでした。

映像自体は頑張ってるので単純に作業用BGVとして流しっぱなしにしとく、というのはアリかもしれません。  

ラブ&モンスターズ

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NETFLIXオリジナル映画は面白くもつまらなくもない中途半端な映画が多い印象ですが、これは良かった。

化学物質で動物や昆虫が人間を襲うモンスターとなってしまった世界。95%の人口を失った人類は地下シェルターで助け合いながら生き延びていた。

観た映画が連続で世界崩壊してますが、人類同士で争っているモータルエンジンに対してこちらはずいぶん優しいです。

主人公のジョエルはパニックに陥ると固まってしまうため、地上での物資調達には参加できない。しかし仲間たちは彼が料理や機械の修理で役に立っている、とフォローしてくれる。

ゾンビ映画で閉じ込められたショッピングモールだったら必ず性格最悪の奴が一人はいてギスギス人間関係が話のメインになってくるのですが、この映画はそうではなくて、それがいい。

それでも自分が役立たずだと考え孤独を感じているジョエルは、遠く離れたシェルターに恋人が避難していることを知り、モンスターで溢れる地上を通って単身で向かうことを決意する。そんなジョエルの身を案じ、本気で寂しがりつつも送り出す仲間たち。いい奴らなんですよ。

地上で出会う生存者もジョエルにサバイバルの手ほどきをしてくれる頼もしい仲間だし、相棒になる犬のボーイはこれまで観た映画のなかでもトップクラスに賢い&かわいい。そして死なないので安心して観ていられる。

登場するモンスターのデザインにも愛嬌があり、狂暴な奴から人畜無害のものまで様々。それらとの遭遇を経てヘタレのジョエルがきっちり生き延びられる人間に成長していくのもド定番でよし。

人類の95%が死んだ世界にしてはだいぶヌルくて結構のほほんと旅ができてしまうのは拍子抜けなのだけれど、この映画で見るべきは命がけのサバイバルではなくて、前述のような優しい世界なので、これぐらいがちょうど良いと思います。必要以上に痛そうだったりハラハラさせられたりするのは合わない。

タイトル通り、全編にラブとモンスターが満ち溢れております。人間同士、ペット、果てはモンスターとの間にも確かに生まれる愛。ラブ。犬かわいいよ犬。

心に負担のかからないポストアポカリプスもの。人類が食物連鎖の頂点からころげ落ちてもなお自然は美しい。そして人がみんな優しいのがなんか嬉しくなってくるので、心身が疲れてるときに観ましょう。効きます。

Mr.ノーバディ 

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「ロシアンマフィアがブチ切れたおっさんに壊滅させられるやつ(ジャンル名)です。ハリウッド映画界におけるロシアンマフィアはいつだって手頃な巻き藁みたいな扱いをされていて、いっそ哀れになってきます。

「いつものやつ」と注文したらいつものやつが出てくるこの安心感よ。こういう映画こそ劇場の大スクリーンで観たいやつ。

ジャンル名が全てなので多くの説明は必要ありませんが、キレるまでの描写が非常にテンポよく進むのが良いです。にしても毎週毎週ゴミを出し損ねすぎじゃないでしょうか。

ボブ・オデンカーク演じる本作のおっさんは類似の作品とはちょっと毛色が違って妻子持ちです。求めて家庭を持ち、求めて「普通の生活」を送っているものの、心の底ではかつてのような戦いを望んでもいる、というようなキャラクターに見えました。

なので、偶然遭遇しただけのチンピラも必要以上にボコるし、自宅を襲撃した敵は死体か瀕死にしたあとソファーに並べて説教します。あと燃やします。スタイリッシュにスパッと敵を倒すアクションではないので、より一層「暴力」感が増している感じ。

同じく「ロシアンマフィアがブチ切れたおっさんに壊滅させられるやつ」である『ジョン・ウィック』や『イコライザー』なんかと比べても一番「普通のおっさん」をやっているのに、狂人度合いが頭一つ抜けているのが楽しいです。

クラシックカーでちょっと古い感じのポップスをかけながらのカーチェイスとか、ラストバトルの舞台にいきいきとお手製トラップを仕掛けているところも好き。

ラストバトルでしれっとおっさんが増えてるのも笑ったし、中でもBTTFのドクをやっていたクリストファー・ロイドがめちゃめちゃ元気かつ楽しそうに暴れるので最高でした。

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理不尽無理ゲーやりこみRTA「コンティニュー」他 ー 最近観た映画の感想

武器人間

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B級ホラーかくあるべし。ナチスお抱えのマッドサイエンティスト謹製・面白クリーチャーがソビエト兵に襲いかかる!!

もうナチスって言っときゃ何やってもいいだろってぐらい雑に扱われるB級映画界の万能食材・ナチス党。しかしながら本作ではトンチキ兵器×人体実験というお題があまりにもマッチしております。 

「おはよう!」「オッスオッス」「おかわり!」ぐらいの軽いノリで機械と人間の悪魔合体、というかニコイチにされたクリーチャー兵器が次々登場、ソビエト兵は戦い、そして逃げ惑う。

ほぼそれだけの映画ではありますが、博士の趣味だけに振り切って設計された実用性皆無のクリーチャー兵器は鉄分多めで悪趣味カッコイイ。

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これは公開時に先着でもらえたポストカードだそうで。超ほしい。

まあとにかく博士がウッキウキでバケモン量産しているのを見ると、これはまんま監督の心境を写してるんだろうなあと思います。こんなん作るの楽しすぎるだろ。

部隊の一人が記録映像を残しているという体のPOV映画なので、クリーチャーが出るときほどカメラが揺れがちでじっくり観察できないのが残念なのですが、脚本にもちょっとした捻りがあり、クソ野郎にきっちり因果応報が行く結末はどっかで観たことあるような気がするものの、結構好き。まあクソ野郎以外も大体死にますけど。

なお博士だけは最期までずっとウッキウキです。

グロは大分少なくて大体は安心して観られるんですが、時折生身の脳を出したがるので、その辺り苦手な人はご注意を。(俺は苦手です)

あとドイツ人もソビエト人もみんなめっちゃ英語で喋ってんのに、アイン・ツヴァイ・ドライだけ唐突にドイツ語になって字幕出るのがアホっぽくて面白かったです。 

武器人間

武器人間

  • カレル・ローデン
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コンティニュー

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最近本当によく見かけるようになった死に戻りループものなんだけど、これは本当に面白かった。

ある日突然、次から次へと殺し屋に狙われるようになった主人公は、必ず殺されて終わるその一日をなぜか何度も繰り返す。銃殺・墜落・首チョンパ。殺されると寝起きをマチェットで襲われる最悪の目覚めまで時間が巻き戻る。

フランク・グリロ演ずる主人公は元デルタフォースの戦闘のプロ、かつ映画が始まった時点で既に100回以上のループを経験済み。朝起きてからの一連の流れはアクションゲームで言うところの「パターン化」が完全にできており、ゲームのやりこみ実況解説のような異様にテンポのいいアクションが展開されます。

『マトリックス』のキアヌ・リーブスは超人的能力で弾丸を回避しましたが、本作のフランク・グリロは何度も死んで覚えた「安地」でくつろぐ。反射ではなく経験と学習によって成される落ち着き払った無双アクションが超楽しい。

それでも死に続ける難所を少しづつやり方を変えて試してみる、あるいは無限に繰り返される時間を利用して地道に訓練することで乗り越える。

『コンティニュー(原題:Boss Level)』というタイトルや昔のアーケードゲームのようなフォントといい、明らかにビデオゲームを下敷きにしながらも、全くゲームの話になっていないあたりもとても良い。

ゲーム的演出といえば『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』を連想しますが、1UPアイテムが現実に現れたり、格闘ゲームのような必殺技を繰り出す『スコット~』と違って、こちらはプレイスタイルがゲーム的なんですよね。随所で「あるある」と思わせてくれるのが本当に上手い。

加えて離れて暮らす息子とのコミュニケーションはゲーセンでの対戦プレイとか、もう本当にゲーム好きすぎだろこの映画は。ゲームをテーマにしただけのクソ映画とは比べ物にならないくらい「ゲームらしさ」を丁寧に扱っていると感じます。

殺し屋軍団のキャラ立ちっぷりもいいし、最終的にただの攻略からRTAになって彼らが雑にスキップされるのも、もう本当大好き。

結末があっさりしすぎで余韻がない、みたいな感想をいくつか目にしましたが、グリッチを駆使したRTAなんてそんなもん(なんの脈絡もなくいきなりエンドロールが始まる的な)なので、俺はそれも含めて「それっぽい」なあと感じました。

ゲームそのものではなく「ゲーム的なるもの」の映像化として満足度高し。 

ピエロがお前を嘲笑う 

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小物ハッカー集団が小物扱いにキレて大きなヤマを仕掛けたら大事になってしまい慌てふためく映画です。

ハッキングって画が地味なので、フィクションのスーパーハカーさんは無闇に大量のウィンドウを開いたり、自作の攻撃プログラムに「よーし、良い子だ」とか呟きがちなのですが、本作ではそういう定形表現がなくて良かったです。

地道なソーシャルハッキング主体だったり、ダークウェブのフォーラムでのやり取りをメトロ内に集まるアバターで表現するのもいいですね。

一方で、この映画の売りらしい(知らずに観た)「100%見破れないトリック」なんですが、俺は全くもって気に入らないというか、「騙された!」という気持ちがこれっぽっちも湧きませんでした。それをやる合理的な理由がなく、トリックを仕掛ける事自体が目的になってしまっているように思えるので。

この先はオチについての不満を書きますので、ネタバレが嫌な人は先に観てください。 

じゃあ書きます。

この映画のトリックは

  1. 主人公ベンヤミンが証言するハッカー仲間は実はベンヤミンが作り出した多重人格であり、実在しない
  2. と、捜査官に思わせることでベンヤミンは証人保護プログラムの適用外となり、気の毒に思った捜査官が5分間だけ警察のデータベースへの侵入を許可、自己の情報を書き換えることで単なる証人保護以上の自由を得て(でないと1.で単独犯だと証言しない理由が分からない)仲間と逃亡する

の2段オチ。

なんで作戦が警察の同情ベースなんだよって話だし、捜査官もそんな理由でハッカーに侵入を許すんじゃないよ。

100%騙される、ってそりゃ見破れないよ、必然性が全然ないんだもん。仕掛ける意味のないトリックでドヤ顔されても困るわ。

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ババアズ・バタリオン「デンデラ」他 ー 最近観た映画の感想

機動警察パトレイバー2 the Movie

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面白え!! & レイバー全然出ねえ!!

日本が戦争状態に陥るとしたらどんな状況か。その問いの答えがまさかの内戦、警察と自衛隊という治安機関同士のぶつかり合い。

横浜ベイブリッジで発生した爆破事件。その裏にはPKOでレイバー小隊を指揮していた元自衛官率いるグループの影が。

責任を警察に押し付けようとする政府によって実行される自衛隊の都内への治安出動。決定的となる警察と自衛隊の対立。抑えめの描写で話が進んでいるだけに、なおさらこの画が鮮烈で。

この瞬間、決定的に日常が崩壊しているのにいつもどおりに出勤していつもどおりの生活を送っている都民も皮肉が効いていていい。コロナ禍でも電車に乗って通勤せざるを得ない現状に通ずる、というか現実に日本人は全くこの通りの振る舞いををすることが分かったわけでね。

責任逃れに必死な警察上層部の図なんかも如何にもって感じで面白い。上の無能を現場がなんとかする美しき日本。「シン・ゴジラ」にも似た味わい。

特車二課が襲撃されて孤立する展開は漫画版の最終エピソードにもありましたが、自衛隊のヘリが警察の拠点を蜂の巣にしていく映像は、同じネタの焼き直しや使い回しとはとても言えない凄まじいインパクトがあります。

ここで整備中のレイバーがほとんど破壊されるし、使える数少ないレイバーも戦闘開始後、ほとんど格闘シーンもなく次のカットでは敵と相打ちでスクラップになっている。前作の感想でレイバーの戦闘が蛇足に感じると書いたけど、今回レイバーを活躍させる気が全くなくてちょっと笑えます。だってこの話にロボットの格闘はいらないもん、と。(わかる)

じゃあパトレイバーである必要はないのか、というとそうとも言い切れなくて、後藤隊長、南雲隊長、松井刑事といった漫画やTVシリーズを知っている人間にとってはおなじみの人たちがメインキャラとなっているというのが肝要。多少でもその人となりが事前知識として頭に入っていると、状況の理解がものすごく早くなるんですよね。(後藤さんが声を荒げるならそりゃあ大変なことだと一発で分かる)

一方で特車二課の隊員はほぼ空気でした。太田はクソウザかったです。

結局のところ、必ずしもパトレイバーである必要はないし、事前知識はなくても楽しめるのだけれど、パトレイバーの皮をかぶせているからより一層面白く感じるし、そもそもパトレイバーの企画じゃなかったらこの映画製作されてないよね。

その上でやりたい放題やってんだからもう最高ですよ。 

メン・イン・ブラック:インターナショナル

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映画には「可もなく不可もなく毒にも薬にもなんねぇ3日で内容を忘れるハリウッド大作」というジャンルがあると思っていて、これはそれでした。

可もなく不可もなく毒にも薬にもなんねぇ3日で内容を忘れるハリウッド大作が観たい気分のときにおすすめです(そういうときはあるので否定をしているわけではない)。

ちなみに観てから3日目にこの文章書いてます。明日には内容を忘れてしまうので急ぎ感想をしたためているのですが、忘れても「頭空っぽにして観られる楽しい映画です」とかなんとか言っとけばだいたい当てはまるので楽でいいです。

クリス・ヘムズワースにちっちゃいハンマーを持たせて勝ち誇らせてみたり、ポリコレに気を使って親指ビシィって立てたりしてとってもおもしろかったですね。わかりやすい。「ここが面白いところですよ」って付箋が貼ってある本みたいですね。

あとオーバーテクノロジーの超兵器を手に入れてワクテカしながら「ちょっと撃ってみようぜ!」って言うときのクリス・ヘムズワースの笑顔は完全にアホの顔でそこは掛け値なしに面白かったです。

クリス・ヘムズワース演じるアホといえば「マイティ・ソー バトルロイヤル」のときのソーとか「ゴーストバスターズ」のケヴィン等がありますが、今回は超有能なMIBのトップエージェントであるにも関わらず、魂から発せられたかのようなアホ面が最高でした。

変顔じゃないの。超絶イケメンの素敵な笑顔なのに「あ、コレ駄目なやつだ」ってすぐ分かるぐらい完全にアホがにじみ出てるの。トップスターの演技力半端ねえな。

あとはえーと、頭空っぽにして観られる楽しい映画でした。おわり。  

デンデラ

 

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口減らしとして姨捨てされた老婆たちは山奥で集落を作って生き延びており、村への復讐を果たすべく戦闘訓練を行っていた!!

なるほど、追放からの復讐譚。「なろう」とかで大人気のやつですね。俺は詳しいんだ。

最年少70歳(70歳になると山に捨てられるので)からのババア軍団による戦闘。そんなん面白いに決まってんじゃん。

往年の大女優たちによる美老女揃いの軍団ではありますが、過酷な雪山の中、ボロをまとって鬼気迫る表情で巻藁を突く彼女らの逞しさに敬意を表してここは「ババア」と書かせてもらいたい。「老婆」では足りない。

いざ決起せん、というところまでは本当にワクワクして面白い。途中で熊が乱入してきて復讐が有耶無耶になっちゃうのがちょっと残念ですが、熊大暴れ、血しぶきドバドバはちょっと予想外の映像で驚きました。おばあちゃんにここまで大量の血糊をあびせまくった作品ってのも他に例がないんじゃないでしょうか。

ちょっと安っぽいですが、おかげで過剰にグロくもないし、一風変わったアニマルパニックものとしても楽しめます。

ところで、アリ・アスター監督が「ミッドサマー」を撮る際に同じく姥捨伝説を描いた「楢山節考」の影響を受けていることを公言していますが、ひょっとしてこの映画も観てる? どうしても連想せざるを得ないシーンあり。 

デンデラ

デンデラ

  • 浅丘ルリ子
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ヘヴィメタル寿司 ー 最近観た映画の感想

激突!

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スピルバーグの初監督長編。これもU-NEXTにしかなかったのでとりあえず観とこうと。

タンクローリーに延々あおり運転をされるというサスペンス。煽り運転は昨今日本でも社会問題として取り上げられることが多くなっていますが、時代や洋の東西を問わず人間は全く進歩してないのがよく分かりますね。

如何にもアメリカ映画って感じの殺風景な一本道で、巨大なタンクローリーに殺意を込めて煽られまくる。なんとかやり過ごしたと思っても行く先で待ち受けているタンクローリー。最後までドライバーの顔が出ないことと、まるで幽霊船のように年季の入ったボロボロのタンクローリーの佇まいゆえに心霊現象や悪夢の類にすら思える執拗さで追跡は続く。

デス・プルーフ」終盤のカート・ラッセル側の気持ちになる映画。要は常に強いられる緊迫感で見る見るうちに憔悴していく主人公を眺めるだけの映画なのですが、やはり演出が巧みなのでオチが付くまで目が離せなくなるんですよね。結末まで観て煽られまくったストレスを発散させないことにはこちらの気持ちの収まりがつかないという。

全然ジャンルの違う映画なんだけど何故か「新感染 ファイナル・エクスプレス」を思い出しました。あれもずっと心の休まる暇がないんだけど面白い。

一緒に観ていた嫁さんは「毛根にクる」って言ってました。 

激突! (字幕版)

激突! (字幕版)

  • デニス・ウィーヴァー
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皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

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俺は世代が違うしスパロボもやったことがないので馴染みがないのですが、「鋼鉄ジーグ」は昔のロボットアニメ。これが当時イタリアで大ヒットしたらしく、ある世代のイタリア人にとってはガンダムよりも馴染み深いそうで。ジーグ直撃世代の監督がオマージュのヒーロー映画を撮っても通用するぐらいには。

主人公は核廃棄物かなんか(適当)で意図せずスーパーパワーを手に入れてしまったおっさん。このおっさん、もともとケチな窃盗とか犯罪の手伝いでその日暮らしをしているゴロツキなので、力を手に入れてもやることは人目を避けてATMをもぎ取って帰ったり、現金輸送車を襲ったり。

超人として派手に力を誇示することもなく、奪った金で贅沢をするでもなく。大金を手に入れてもとのパッとしない生活をそのまま続けていたが、ひょんなことから同じアパートに住んでいるヒロインを助けることになる。

このヒロインは結構いい年なんだけどちょっと気が触れていて、何故か日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」のDVDを連日繰り返し観て現実と区別がつかなくなっている人。主人公のパワーを見て「鋼鉄ジーグだ!!」と懐いてしまう。

鋼鉄ジーグ要素ってこの主人公とヒロインのつながりでしかないので、単なるマクガフィンの類だと考えれば仮面ライダーでもアメコミヒーローでも置き換え可能ではあるのですが、率直に言ってダサいデザインの鋼鉄ジーグだからこそヒロインの特異性が際立ってる気もします。 

最終的にはヒロインに絡んでいた地元のギャングと敵対するのですが、監視カメラの映像などで有名になってしまった主人公に嫉妬する、恐ろしく器のちっちぇえボス vs 怪力持ち腐れの小悪党という、スーパーヒーロー映画としては大変に地味な構図。

バトルを期待すると本当に映えない映画なのですが、このボスが本当に小物かつクズかつ頭が悪く、主人公と関係ないところで勝手にどんどん追い詰められて行くので楽しく観ることができます。

悪と戦わないヒーローとあまりにも魅力のないヴィランによる謎のシナジー。なんともしっとりとした空気の漂うヒーロー映画でした。ヒーロー映画なのか? 

リトルトウキョー殺人課

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「ニンジャスレイヤー」や「キル・ビル」のように、西洋人が考える「間違った日本」を殊更に強調して面白がる作品というものがありますが、そうではなく恐らく素で全部間違っているのがこの映画です。

海外文化を魔改造してしまうのは日本人も同じなので、いちいちドヤ顔でツッコミを入れるのは野暮(「カリフォルニアロールは寿司じゃない」と言い出すようなもの)だと思うのですが、本作は一から十まで間違っているところしかないので言及しないこと自体が不可能です。

日本育ちの刑事であるドルフ・ラングレンがLAの日本人街で起きた殺人事件の捜査でジャパニーズヤクザをフリーダムにブッ殺してまわる映画。ドルフ・ラングレンの何言ってんだかわからない日本語と、日本人役者の恐ろしく下手くそなカタカナ英語(逆に聞き取りやすい)が両方楽しめる欲張りセット。

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一方で日本人役者の喋る日本語は超適当に翻訳されており、唐突にヘヴィメタル寿司等の大変エッジの効いた単語が飛び出してきます。

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セップク・ブシドー・ニョタイモリ。ラストバトルに臨むドルフ・ラングレンの出で立ちを見れば内容は概ねご理解いただけると思うので詳細は省きますが、この手のボンクラ日本をネタではなくガチでやっている作品は実は初めて見ます(部分的におかしいのはよくありますが)。

ニンジャスレイヤーってオマージュとして良くできてるんですね。SFじゃないニンジャスレイヤーだわこれ。 

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無限ループって怖くね? 「パラドクス」他 ー 最近観た映画の感想

デビルズ・メタル

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メタルを聴くと救われる。

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時折Twitterのタイムラインに流れてきてたこのカットが面白すぎるのでずっと観たかったんですが、わりと普通の悪趣味スプラッター映画かなあと。

高校生メタルバンドがひょんなことから手に入れた魔王を召喚する楽譜を演奏してしまい、街中の人間が悪魔憑きになって襲いかかってくる。

あとはチェーンソーやら斧やらでバッサバッサと悪魔憑きを殺しまくるし、受肉した魔王も殺す。血ィドバドバ出る。内臓もボロボロこぼれる。

この手の映画、一応普通に観れますけども、基本的に俺はゴア描写好きじゃないんですよね。血がアホほど出るまではギャグの範疇でいいんですが、人間の断面とか観たくない。

それらを塗りつぶして有り余るほどの突き抜けた頭の悪さがあるかと言えばそうでもなく、ガワにメタルをかぶせただけのありがちな映画って感じ。というかB級スプラッターって全部内容同じなんじゃないだろうかと思うぐらい既視感がすごい。

ゴリッゴリのメタルをBGMに、手近な武器としてディルドーやバイブレーターといった大人のおもちゃで悪魔憑きに襲いかかる(そして勝つ)とか、面白がる人は面白がるんでしょうけどね。個人的には方向性が合いませんでした。

観た後で知ったんですが、これ「ガンズ・アキンボ」と同じ監督なんですね。いずれも悪趣味には違いないけれど、ガンズ・アキンボはきっちり一般受けするようにブラッシュアップされてるのがすげーなと、変な感心をしてしまいました。 

機動警察パトレイバー THE MOVIE

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パトレイバーは漫画版を既読。TV版は未見ですが、評価の高い劇場版を観てみたかったのです。

パトレイバーはレイバーが徹底して「汎用的な重機」として描かれているのがいいですよね。ロボットアニメとしてよりはお仕事モノの部分に軸足が置かれている。

公開は30年前、劇中内の時間でも20年前だというのに内容は全く古びない。漫画版にもOSがハックされる話がありましたけど、より大規模に首都壊滅レベルのテロ事件として持ってくるその先見性がスゲエし、それを刑事モノの「足で稼ぐ捜査」的描写で地道に進めていくのもいい。

なのでぶっちゃけレイバー同士の格闘は無用というか、最後の零式とのバトルは蛇足に感じます。ロボットアニメとしての建て付けを考えたら入れなきゃいけないのは分かりますが、個人的には警備ロボットと作業用レイバーまでで良かった。

30年前から見た「未来の東京(20年前)」という世界はちょっと良いですね。バラック街の中を進む人型レイバーとか再開発地区の廃墟とか。

実際の世界とは似ても似つかない風景なのに、今観ると20年前だったらこういう場所が本当にあったのではないかという気がしてくる。妙なリアリティがあるんですよね。

映像も脚本も好みでした。2はこれに輪をかけて名作だという話なので楽しみ。 

パラドクス

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ポスターがサイコホラーとかスラッシュホラーみたいですが、こんな人は出てこないし、こんなシーンはありません。

古くは「Cube」なんかを連想させる不条理系のシチュエーションスリラー。ループものなんですが、近年よく見る時間遡行のループではなくて空間がループする。

非常階段は1階の下に最上階が現れ、一本道は何度でも同じ看板とガソリンスタンドが現れる。そんな不可解な空間に囚われた人間たちのお話。

ループしているのは空間だけなので、時間は普通に経過する。食料などの物資は消費してもなぜか定期的に初期化されてもとに戻るので生存自体は問題なし。

数日、数ヶ月、数年。あるいは死ぬまで脱出できないかもしれない空間に監禁された人間の精神はどのような変貌を遂げるのか。個々の全く異なった振る舞いと、閉鎖空間・極小人数でも生まれる独自の文化、宗教じみたもの。思考実験としてめっちゃ面白い。あといかにも金かかってなさそうなのもいい。

一応ループの理由も説明されるけれど、まあ何の説明にもなっていません。元より超現実的なシチュエーションなので俺は全く気になりませんでしたが。

最近は少しづつ刻んで映画を観ることが多いのですが、これは最終的に一体どういうオチを付けるのかが気になって一気に最後まで。人によってはちゃぶ台ひっくり返すかもしれませんが。 

パラドクス [DVD]

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  • エルナン・メンドーサ
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エル・マリアッチ

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俺が愛して止まない痛快クソバカB級ガンアクション「デスペラード」を含むマリアッチ三部作の一作目。

ギターケースに銃を詰め込んだ殺し屋と勘違いされたギター弾き(マリアッチ)の兄ちゃんがギャングに命を狙われて追いかけ回される。

相当シンプルでありがちな筋書きなのにちゃんと面白くなるのが監督の力量、画作りの妙というやつなのでしょうかね。ザラザラのグレインノイズがメキシコの乾いた町並みによく似合う。

明らかな低予算映画なので続編2作のような派手なガンアクションはありませんが、必死で逃げ回りながら、時には敵を返り討ちにしていく、本当にただそれだけの映画がちゃんと面白い。

主人公がアントニオ・バンデラスじゃないのでデスペラードの原型になる別の話なのかと思ってたんですが、改めてデスペラードを見直すと設定上は同一人物っぽいですね(この映画での出来事を夢に見るシーンがある)。バンデラス自身がギターケースに銃を詰め込んだ「エル・マリアッチ」となるまでの前日譚。

このときはちょっと幼さの残る顔をした気のいい青年なのに、一体何喰ったらバンデラスに成長してしまうんだと思うと笑いが止まりません。 

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