うちの本棚に生き残っている漫画たち

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 最近は専らkindleにシフトしているので頻度は大分下がっているのですが、漫画をアホ程読む人は大抵「まとめて処分」をした経験があるでしょう。

 引っ越しの際の荷物の整理だったり、新しい本のためのスペース確保だったり。売ったり捨てたり裁断して電子化したり。手放したくはないけれど、そうしていかないと本に埋もれてしまうから仕方なく。結果として、本棚に生き残る漫画は個人的な厳選作品集となっていきます。

 そういう漫画を紹介したいのですが、流行りの「おすすめ漫画ベスト100」みたいになっちゃうと大変なのでレギュレーションで絞ります。

  • 完結していること
  • 1巻完結でないこと
  • 10巻「未満」であること

 それほどマイナーな作品があるわけではないので、重度のマニアの方におかれましては優しくスルーしてくださることを推奨しますよ。

 

神聖モテモテ王国 全6巻 

神聖モテモテ王国[新装版]1 (少年サンデーコミックススペシャル)

神聖モテモテ王国[新装版]1 (少年サンデーコミックススペシャル)

 

  旧版、新装版、オンデマンド版、kindle版、全部持ってます。旧版から作った自炊データもある。もはや愛しすぎているので、つまらなかったと言われるのが怖くて逆に薦められないというレベルに至ってしまっております。

 実際、誰にでもお薦めできる漫画というわけではなく、だいぶ癖の強いギャグ。宇宙人ファーザーがナオンにモテるために毎回さまざまな作戦を画策し、警察につかまるか死ぬ*1漫画。

 ギャグ漫画は言語感覚が重要だと俺は思うのですが、作者ながいけんの狂ったセンスは台詞だけにとどまらず、ファーザーの扮するモテキャラクターの名前や唐突に挿入される図表・説明文・主題歌・挿入歌等に惜しみなく投入されます。

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 同時期の大ヒットギャグ漫画に「すごいよ!!マサルさん」があって、それも大笑いしながら読んでたんですが、こちらはテンポや間の巧みさによって笑わせる漫画。今は少年ジャンプ+でリバイバル連載されていますが、当時さんざん読んだので今でも笑えるかというとそうでもない。

 モテモテ王国はそれと対極で単語選びの特異さ、セリフ回しの冗長さで笑わせる。これは文章の面白さに近い。というか文章そのものが頻繁に挿入される。インパクトで笑わせに来ない分、ネタを覚えてしまっていてもいまだに笑える中毒性があります。

 新装版もとっくに絶版になっていることからも分かる通り、万人受けしないのは承知しています。この漫画を紹介するのは誰かに薦めたいのではなく、マイナー作品(と言う程でもないが)を好むサブカル気取りをしたいのでもなく、単に同好の士と「いいよね」「いい…」*2がしたいだけ。

 阿鼻教官いいよね。

 

茄子 全3巻 (新装版は上下巻) 

茄子(1)

茄子(1)

 

 黒田硫黄の漫画が特別好きというわけでもないのだけれど、この「茄子」だけは連載当時からずっと好きで事あるごとに読んでる。茄子をキーワードにしたオムニバス。ジブリアニメにもなった「アンダルシアの夏」の収録作品といえば通りがいいのかな。

(11/4追記)すいません、ジブリじゃないそうです。あの作画で違う会社って逆にすごい。

 登場人物がとにかくいい。インテリ農業オヤジ、父親が蒸発した女子高生、働きたくない失業者。境遇はさておき皆さんごくごくフツーの方々なんですが、妙に達観しているというか、いい感じに力が抜けていて台詞のひとつひとつがいちいち耳に心地いい。

「大人と話すのはいいな…… いろいろあったらいろいろあったんだって言うもの できもしないことしてくれようとしないもの」

とは女子高生高橋さんの弁。そういう大人になりたいものでございます。

 

賢い犬リリエンタール 全4巻 

賢い犬リリエンタール  1 (ジャンプコミックス)

賢い犬リリエンタール 1 (ジャンプコミックス)

 

 ジャンプで「ワールドトリガー」連載中の葦原大介の初連載作品。まあジャンプでは長持ちしないだろうなと俺は思ってて事実そうだったんですが、雑誌のテイストに合ってないだけでこれすごい面白かったんですよ。

 ある日、日野家に「弟」として連れてこられた喋る犬、リリエンタール。彼には空想を現実にしてしまう謎の能力があり、無自覚に珍事件を引き起こす。世間知らずでトラブルメーカーのリリエンタールですが、彼自身は非常に素直な良い子。それを取り巻く兄妹や友人、見守る大人たちが慈愛に満ちていてなんとも安らぐ。

 まあほのぼの日常ファンタジー路線はジャンプでは人気出ないよね。終盤でリリエンタールはその力を狙った謎の組織に拉致されます。そこからの展開もまた見事。短い連載期間ながらも丁寧に描かれてきた各キャラクターの個性を活かしたリリエンタール救出作戦。スーパーうちゅうねこの復活とか、ライトニング光彦の参戦タイミングなんか少年漫画の王道ですね。

 単行本の描き下ろして残った問題にもしっかりけりを付けて、この漫画は俺的には100点。欲を言えば10巻ぐらいは続いて欲しかった。

 

国民クイズ 全4巻(新装版は上下巻) 

国民クイズ  上

国民クイズ 上

 

 ディストピア物って結構好きなんですよ。この作品で描かれるディストピアはとびっきり特殊な「国民クイズ体制」の日本。ありとあらゆる願いはクイズで合格すれば勝ち取ることができる。

 金が欲しい、権力が欲しい、あいつを殺してくれ。合格者の賞与は毎週のクイズ本戦の前に全国ネットで放映。それが例え逆恨みに由来する殺戮ショーであろうとも国民は熱狂する。それはどんな願いでも叶えられるということの証左でもあるから。このように国家意思の決定がクイズで行われるという馬鹿馬鹿しさが逆に世界の狂気を強調するのです。

 国民クイズの超人気司会者であり、B級不合格者でもあるK井K一が体制・反体制のどちらに付くのか、国民クイズ体制転覆の革命は成るのか。最終盤まで全く読めない濁流のようなストーリー。非常に映画向きだと思うんだけど実写化されませんね。

 あとこの本、kindle版のお得感がすごいです。

 

度胸星 全4巻 

度胸星 (01) (ヤングサンデーコミックス)

度胸星 (01) (ヤングサンデーコミックス)

 

 これを打ち切るような編集方針ならそりゃ休刊にもなるよヤングサンデーは。

 火星探査計画の宇宙飛行士に応募した三河度胸が持ち前の生真面目さといざという時のクソ度胸で選抜試験を勝ち抜いていくサクセスストーリーと、火星へ先行している一次探査隊と謎の物体テセラックの戦いが平行して進んでいく。

 閉鎖環境試験を始めとした宇宙飛行士になるための特殊な試験を知識や経験、あるいは機転とド根性で切り抜けていく面白さは「宇宙兄弟」を読んでも分かる通り。さらにこの漫画は「未知との遭遇」というガッチガチのSFが同時進行。

 人間の認識できる次元を超越した存在であるテセラックが飛行士たちに襲いかかる。この「次元を超越」の描写が素晴らしくて、例えば人間を「裏返」したり、遥か遠くに小さく見える母船を本当に小さいものとしてプチッと潰してみたり。全く意思の疎通ができない、生命体かどうかすらも分からないテセラックと対峙する絶望感がひと目で伝わる表現力。

 風呂敷を広げるだけ広げたところで打ち切られて終わっちゃいましたが。ほんとヤングサンデー編集部は許し難い。

 

BUTTER!! 全6巻 

BUTTER!!!(1)

BUTTER!!!(1)

 

 バター。虎がグルグル回るアレからとったタイトルで、高校の社交ダンス部のお話。

 ダンス漫画なのに躍動感がない、とはよく言われていて実際その通りなんですが、この漫画で見るべきところはそこではなく頑張る高校生と内面的に成長する若者の姿です。ヤマシタトモコという作家は人の感情の機微を描くのに長けた作家だと思うのでそっちを楽しみましょう。

 6人の部員にそれぞれの物語があるんですが、最初と最後の振れ幅の大きさという意味で主役は斜に構えたオタク野郎の端場くんだろうなと思う次第。いじめられっ子の端場くんがリア充*3になるまでの物語。

 1巻だけでその片鱗が垣間見れるので是非。今ならkindle版1巻が無料です。

 

ノーマーク爆牌党 全9巻 

ノーマーク爆牌党 (1) (近代麻雀コミックス)

ノーマーク爆牌党 (1) (近代麻雀コミックス)

 

 片山まさゆきの麻雀漫画で一番好き。次点は「ミリオンシャンテンさだめだ!!」。主人公もライバルも超能力じみた技を使う麻雀漫画が多い中で、この漫画は各雀士が独自の理論に基づき、地に足の着いた闘牌をするのがいいのです。

 派手な技を使わずともその打ち筋できっちりとキャラクターの個性が出る。ちゃんと麻雀というゲームと、その中で繰り広げられる思考戦が描かれているんですよね。

 当初主人公と思われた爆岡だけは相手の手牌を全て読みきるという人外の技を使いますが、彼をラスボスポジションに置いてそれに努力と研究で追いすがる鉄壁くんを中盤以降の主人公に据えたのがいい。ストーリー漫画としてもよく出来ていて、麻雀知らなくても結構面白いんじゃないかな。配牌だけで1年近く連載したりしないし。

 

皇国の守護者 全5巻 

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

 

 日本とロシアをモデルにした「皇国」と「帝国」。帝国軍の進撃により潰走する皇国軍の撤退戦のお話。というか連載打ち切りでそこまででコミカライズが終わっちゃってるんですよね。噂では原作者と編集が揉めたとかどうとか。何と勿体無いことを。

 サーベルタイガーを使う剣牙兵、テレパシーで通信を担う導術使いや龍が出てくるなどファンタジー要素を盛り込みつつも基本はカッチリとした近代戦が描かれます。

 剣牙兵部隊隊長の新城直衛は小柄で小心、しかしながら部隊を率いれば神がかった用兵を行う切れ者。姑息だろうがなんだろうが部下を生かし、最大の作戦効果を得るためには何でもする。そしてそういう己の卑しさ(と本人は思っている)に自己嫌悪に陥りながらも、心を殺して冷静沈着な指揮官を演じる。そこには軍人としての美しさがあります。

 撤退戦という時点で負け戦の話なんですが、寡兵で大軍の足止めを成す悲壮な退却にはある種のヒロイックな爽快感すら伴います。戦いの中で皇国帝国相互の軍人に芽生える尊敬の感情もまたアツい。

 全編通して震えるほどに格好良いのですが、俺はそれをきちんと説明する言葉を持ちません。ただ面白いよ、としか。

 

ヴォイニッチホテル 全3巻 

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

 

 完結して間もないので生き残ってるも何もないっちゃないんですが、当分は「ニッケルオデオン」と共に本棚に残ることになると思います。当初kindle版が出てなかったんで最後まで紙で揃えることになったんですよね。

 南海の小さな島国のリゾートホテル、ホテルヴォイニッチ。宿泊客は逃亡中のヤクザ、殺し屋、売人、幽霊、悪魔、漫画家、新婚カップル。従業員は伝説の魔女、島の住人には殺人鬼、少年探偵団、ロボット刑事。あまりにも雑多でフリーダムな群像劇。

 あまり穏やかではない面子を見ての通り、死んだ殺したの殺伐としたシーンが多いんですが、合わせて脱力系の小ネタがひっきりなしに差し挟まれるので驚くほど軽いノリで読める。スッキリした画風でグロさを感じさせないのも含め、これは道満晴明という漫画家の作家性ゆえですね。ドギツイ下ネタもバラバラ殺人も何となくスルッと読ませちゃう。

 道満晴明を挙げるならG=ヒコロウや雑君保プの漫画も紹介したいところなんですが、全くレギュレーションに合わないので断念。この人たち1巻漫画か未完結しかねえよ……。*4

 

速攻生徒会 全3巻 

速攻生徒会 1 (アフタヌーンKC)

速攻生徒会 1 (アフタヌーンKC)

 

 ゲーメスト系作家の話が出たところでこちら。

 スパ2、ハンター、餓狼スペ、真サム、バーチャ2。個人的には格闘ゲームの全盛期ってその頃だと思うのですが、それは今は亡き新声社が今は亡きゲーメストで絶好調だった時期でもあります。

 調子に乗った新声社は「コミックゲーメスト」なる漫画雑誌を創刊し、そして速やかに休刊したのですが、これが意外と面白かったんですよ。アーケードゲームのコミカライズが大半を占める中で、数少ないオリジナル作品のひとつがこの速攻生徒会。

 能力バトル物なんですが、その文法を格闘ゲームから逆輸入しているのが独特。出かかりが無敵の対空。当て身キャラは下段攻撃に弱い。小パンキャンセル投げハメ起きハメ、超必殺技にバリアブルコンボ。溜めキャラは突進系の技が多いし、忍者は本体よりも連れている忍猫が有能。洗脳キャラはアルゴが単純なので小パンで跳ばせたあと対空の立ち大キックで落とせば簡単に勝てる。

 全編がパロディで構成されていて、格ゲーをそこそこやっていた人間なら逆に分かりやすい。こういうキャラのこういう戦法なのだね、と。時々「お約束」破りが出てくるのもまた良し。

 ついにはゲーメスト編集部監修のもとサターンで本当に格闘ゲーム化されましたが、そこそこ面白かったですよ。ファミ通がやらかしたアレに比べたらそれはもう。

 

バニラスパイダー 全3巻 

バニラスパイダー(1) (講談社コミックス)

バニラスパイダー(1) (講談社コミックス)

 

 可愛いんだけどダークで独特な絵柄、個性的で愛嬌があると言えなくもないクリーチャーと頓狂な武器。似た作家というものを全く思いつかないのが阿部洋一という漫画家です。

 人に寄生する謎のクリーチャー「エレベター」にひっそり侵略されつつある町でその存在に気付いた雨留ツツジ。彼は謎の自称宇宙人から依頼されてエレベター狩りを始める。エレベターをスパスパ裁断する必殺ウェポンは何故か水道の蛇口。よく分かんないが何か良いぞ。

寄生獣」のような孤独な戦いかと思いきや、話は一気にパニックホラーに。やたらインク使用量の多い絵柄が湿度の高そうな世界に絶妙にマッチして、何か嫌なんだけど目の離せない得体のしれない魅力を放っています。

 3巻と短いですが綺麗にまとまってます。ラスボスによって引き起こされた50年前の災厄ってのが大変に衝撃的で一読の価値あり。よくこんなん考えつくな。頭ん中どうなってんだこの人。

 

光の大社員 全5巻 

光の大社員 1 (アクションコミックス)

光の大社員 1 (アクションコミックス)

 

 玩具メーカーの新入社員・輝戸光が「大社員」となるべく奮闘するギャグ4コマ。なお、完結しても「大社員」が何のことだかは分からない。

 登場人物がボケばっかりで、大抵の話が投げっぱなし。やたらと集中線が引かれて勢いだけで乗り切る気マンマンですがそれがいい。ツッコミ役は読者です。

 会社員漫画だからサラリーマンネタが多めなのですが、こいつら全然仕事してない。楽しそうでいいな。

 扉イラストなどから察するに作者がおそらくファミコン世代なので、同世代としてはいろいろ共感することも多く。とはいえ漫画本編にはそういう要素は入れず普遍的なところを掬ってきてるので誰でも楽しめます。

 

ハルシオン・ランチ 全2巻 

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

 

  沙村広明に好きなように描かせるとこんなことになってしまう。「やりたい放題」という言葉がこんなにしっくり来る漫画はこれの他には「以下略」ぐらいのものであろうよ。

 超絶画力で終始小ネタの応酬。普段はストーリー漫画の隅っこにさり気なく入れているようなギャグだけでストーリーの大部分を構成するという荒業。しかもこれ、ハイコンテクストって言えばいいんでしょうか、お約束や元ネタが分かって初めて意味の分かるネタがほとんど。「貂蝉民主主義共和国 陸軍・主要武将一覧」とかたったの1ページで大惨事になってるんだが本当に大丈夫なのかこれ。

 毎回毎回そんなドふざけた話を話をやっておきながら、トータルとしては壮大なSFとしてなんかイイ話っぽくまとめているあたりも如才がなくて心憎い。この人の漫画はほんとハズレがないな。

 

 以上。

 どの漫画もちょっと確認のつもりで手にとって普通に全部読み返してしまったし、読みながらこないだ買ったソファで超寝てしまうことを繰り返したがために、このエントリは書きはじめるまでえらい時間がかかりました。大変ですね。

*1:特に説明なく生き返る

*2:これ

*3:ウェーイ的なそれではなく

*4:ワールドヒーローズ2」は実家