「ダンジョン飯」(2回目)-Kindleで読んだ漫画39

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 3巻もスゲー面白かったので、またダンジョン飯の話をしたくなった次第。

 前のはこちらです。

 敵キャラであるモンスターを調理して食べる。それ自体は別段新しい発想ではなくて、古くは「ダンジョンマスター」から近年では「Fallout」シリーズなど、主に洋ゲーにおいてはよくある話だったりします。日本の作品でもゲームパロディ漫画なんかではよく見られたネタ。

 この「ダンジョン飯」という作品のすごいところはそういったモンスター食をメインテーマに取り上げたことではなく、それを描く際のディティールだと思うんですよね。ゲームでは「調理した」「食べて体力が回復した」とだけ表示されるところを想像力で補い、独自の解釈を加えて漫画の形に落としこんでいることこそが素晴らしい。

 納得感のある説明と、わかりやすくそれを伝える漫画の技法。その手腕は調理や食事だけではなく、数あるファンタジーRPGでのお約束に対しても発揮されます。

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 これは2巻でのワンシーンですが、物理攻撃の効かないゴースト系モンスターを祓う定番アイテムの聖水。普通ならどうしても撒いて直接霊体に浴びせかけることを想像してしまいますが、この漫画は「ゴーストは物体をすり抜けるから瓶に入れたままの方が効率いいのでは?」というものすごい発想の転換を繰り出してきました。

 

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 人を惑わせるセイレーンの歌の対処法は「勝手に合わせて歌う」。嫌すぎる。

 モンスターが好きで好きで仕方ないライオスというキャラクターが普通にやりそうなことがそのまま攻略法になっているのが素晴らしい。

 

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 3巻で一番おおっと思ったのがここ。サポート魔法の「水上歩行」は水に対する表面張力を大幅に強化するものらしく、魔法がかかった状態で水をかぶるとこんなことになります。この小さなコマ、なくても話は通じるのですが、あるとないとで説得力が大違い。

 ひとことで「水の上を歩ける」といっても、「うっすら宙に浮く」とか「沈まないほど体が軽くなる」とか、様々な解釈ができます。その辺の解釈をすっ飛ばし、ただ水の上を歩くところを描いて「魔法で歩けてます」で済ませてもよいところを、たった一コマ追加するだけで具体的にどんな原理の魔法なのかまでを説明しきっている。こういった細かい描写が各所に光って作品世界を強固にしています。

 モンスターを殺す冒険者を含め、ダンジョンをひとつの生態系として捉え、それぞれの要素に合理的な解釈をのせていく、そのひとつひとつの作業が丁寧。食事はあくまでダンジョン冒険の一要素であり、描写がそこだけに偏っていないのがいいんです。インパクトに頼った一発ネタに終わらず、連載を経るにつれて作品全体の完成度がどんどん上がっていきます。

 

 その一方で、出来上がる料理は剣と魔法のファンタジー世界をガン無視。

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 料理は蒲焼き、たれには醤油とみりんのおもいっきり日本料理。考えてみれば第1話のサソリ鍋から普通に箸使ってました。

 このようにグルメ要素を分かりやすさに振り切っているあたりは評価の分かれるところかもしれません。ここまでさんざん「説得力」を褒めといて何なんですが、基本コメディだし個人的には良い割り切りではないかと思います。グルメ漫画と考えた場合にはある程度味が想像できるということも大切な要素だと思うので。

 それに材料の生態や特性、調理方法に関してはきちんと細かいところまで考えられており、そういう部分こそがこの漫画の面白さ。それは揺るぎません。

 

 登場人物の描き方もやはり丁寧で、各キャラクターの性格や行動原理をその言動や立ちふるまいでしっかり説明してくれているので、かなり愛着が湧いてきました。

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 キャラクターの表情が豊かなのもその一因ですが、3巻で一番好きな顔は色しか変わらないセンシの怒り顔です。

 

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 ライオスの笑顔にはもはや嫌な予感しかしない。たった3巻でそう思わせるに至ったサイコパス野郎。

 

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 ドライな性格のチルチャックがパーティーに残っている理由には彼のプロ根性・職人気質が見て取れます。

 

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 そしてダンジョン深部に至っても相変わらず地団駄踏んでモンスター食をいやがるマルシル。なんてかわいいんだこのコマ。

 

このマンガがすごい!」2016版の1位に選ばれて、「これが1位は驚きがない」だの「昔は隠れた名作に出会えたのに」だのと言われてましたが、この漫画は十分ニッチだと思うんですけどね。読むにはある程度ダンジョンRPGの知識が必要となるし、掲載誌はハルタですよ。

 それが完成度の高さからネットで話題になって、漫画好きなら誰もが知る作品になった。それだけのパワーがある作品だと考えるべきでしょう。インターネットの普及で「隠れた名作」が掘り出されるのが早くなっただけのこと。

 下手に引き伸ばさず、あと1,2巻で完結しそうなのも個人的には高評価。このクオリティを維持したまま綺麗に風呂敷を畳んでもらえたらいいなと思っております。 

 

ダンジョン飯 3巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))

ダンジョン飯 3巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))